昔観た"ハエ男の恐怖"にゾッとした。でも最後の悍ましいショットしか覚えていない。本作は、その過程に重きを置いているのが哀しくて、おもしろかった。自分の部位をコレクションする洗面台の博物館だなんて、科学者的な発想であり、自虐的にも見えるから泣けてくる。
◇本編に触れます◇
ヴェロニカの妊娠、という要素を入れたのも複雑な気持ちにさせられた。いくつもの真を突く演出によって、観客も興味本位では済まされない切実さを感じる(これについてはまだ解決していないし)。
そして私がさすがクローネンバーグ監督!と思うのは、ラストのシークエンス。最後の転送にも失敗して、彼がテレポッドの部品と融合しちゃうところ。もはやブランドル・フライでもなく、完全な有機物ですら無くなってしまった。それでも僅かな、且つ、確かなブランドルが残っていたこと。だからヴェロニカが撃てなかったこと。と同時に、今度こそ本当に終わらせるしかない。いや、終わらせてあげるしかない。
同じ結末を描くとしても、この変容を経るのと経ないのでは、余韻の残り方が全く異なると思う。