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ザ・フライのふきのレビュー・感想・評価

ザ・フライ(1986年製作の映画)
4.0
物質転移装置を発明した科学者が、意図せずハエと融合してしまうSFホラー作品。

本作にはいわゆる「悪役」というものが存在しない。
ジェフ・ゴールドブラム氏演じるセス・ブランドルは、長年の苦心の末に勝ち取った「実験の成功」と同時に、ベロニカという女性と恋仲になり、さらには実験の副作用で「肉体の強化」という成果を得る。そういった一見「人生の絶頂」とも思える複雑な状況で、正常な判断力を失ったことで、最悪の事態へと突き進む。
ジーナ・デイヴィス氏演じるベロニカも、最初こそは会社のためにセスの研究を勝手に発表しようとするが、様々な状況を経てセスの事情を理解して味方に付くし、ジョン・ゲッツ氏演じるステイシスも、セスの研究を盗んでやろうとか、自分からベロニカを奪ったセスに復讐してやろうとか考えているわけではない。
しかし登場人物たちが自分なりの正しさを求めた結果として、悲劇が生まれてしまう。

結末の悲しさや無慈悲さは、ジョルジュ・ランジュラン氏の原作小説『蝿』やリメイク元の一九五八年の『蠅男の恐怖』のテイストが残されているが、中盤に人生の絶頂を経験するセスの姿を見せておくことで、急転直下ぶりが凄まじいことになっている。ゆえにエンタテインメント性は高いので、原作や過去作よりはぐっと見やすい作品になっているだろう。
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