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きっと全て大丈夫のundoのレビュー・感想・評価

きっと全て大丈夫(2006年製作の映画)
4.2
きっとすべて、うたかたの夢。

「ドン・ハーツフェルト作品集」より。
アニメーション研究・評論家の土居伸彰さんの上映前解説つきで鑑賞。
長編特別編集版。デジタルリマスター。

ドン・ハーツフェルトはアメリカのアニメーター。アカデミー賞短編アニメーション部門に2度のノミネート実績。土居さんによると、アメリカではかなりの人気を誇る作家だそう。

本作は、もともと3作の短編映画であったものを、ひとつの作品として再編集したもの。
すべて鉛筆による手書きで、膨大な枚数の原画が存在するようだ。

最初は、主人公ビルの日常的なあるあるから始まっていく。スピーディーに次々と展開される、日々のどうということのない出来事の数々。
どう感じるべきかわからないまま作品に身を委ねていくと、次第に、世界が少しづつ揺らぎ始めていく感覚にとらわれていく…。

印象的だったのは、絵のタッチ。
お世辞にも写実的とは言えない簡単な絵だが、効果音や素朴な動きの効果も相まって、人間の感情が非常に上手く表現されていることに気づく。

見方によってはユーモラスなようにも見えるのだけど、どこか物憂げで寂しそうな表情のキャラクター達。
これは、文章で表現するのはなかなか厳しい侘び寂びの世界。しかし、なぜか心に刺さる。
見ているうちに、本当の人間よりも表情豊かに見えてくる不思議さ。

ストーリーは明るくはない。
むしろ悲惨だ。
なのに、この作品が心に刻まれるのは、現実の世界がこうした一面を持つことを我々が経験的に知っているからなのだろう。

恐ろしい現実を突きつけられたような気もするし、ただまどろみの中の浅い夢を見ただけのような気もする。

なんだかすごいものを観た。
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