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ブタがいた教室のodyssのレビュー・感想・評価

ブタがいた教室(2008年製作の映画)
4.8
【文句なしの2008年邦画NO.1】

小学校6年生のクラスが豚を飼育して最後には食べるはずが、ペットとして育てているうちに「食べるな」「殺すな」という意見が出てきて、侃々諤々の議論になり・・・・・という実話をもとにした映画だそうです。これは、文句なしにこの年ナンバー1の邦画ですね。

妻夫木先生、おっと、星先生の新米教師ぶりと、26人の子供たちの表情がまず魅力的です。豚を飼う上での苦労、遁走した豚の捜索、そして白熱の議論、PTAの苦情、校長の対応ぶり、子供たちの家庭の様子など、さまざまなエピソードや場面を織り込みながら映画は進行します。

私が何より素晴らしいと思ったのは、豚の飼育という型破りの教育によって、現在の小学校をめぐる様々な状況が照射されていることです。前例がないがゆえに困惑する教頭、文句を持ち込む母親たち。しかし子供たちは豚の飼育がイヤだとは誰も思っていない。むしろそれによって一種の生き甲斐を見つけ、常に何かを考えたり課題を積極的に果たしたりしながら1年間を過ごします。本来的に教育とはこういうものだと思う。本作は、「教育」というテーマを正面から打ち出した映画として優れているのです。

それから、星先生は生徒の態度に右往左往していて教師としての覚悟や責任に欠けているのではないか、という批判を述べておられるレビュアーがおられましたが、その点について一言。この映画では星先生が若くてまだ経験を十分積んでいない教師であるという設定が重要でしょう。ベテラン教師ならこういう型破りの真似はしないわけで、若いからこそできた教育であるというところがこの作品のミソだと思う。

たしかに、最初は食べようとはっきり言って飼い始めたのに生徒の態度に左右されるのは情けないとか、小学生が豚をペット扱いするのは予想できたはずではないか、という言い方はできます。

しかし、教育にあっては予想がすべてではありません。100%間違いないと思ってもハズれることはあるのです。なぜなら、相手は子供であっても人間なのであって、人間の対応には「絶対」はないからです。あるクラスではこうしたらうまくいったから、というので別のクラスでも同じ方法をとっても失敗する場合がある。

そして、教師が未熟で予想を十分にしなかったから結果が悪くなるか、というと、必ずしもそうではない。ここで私は、先生が若くて柔軟だから生徒と一緒に考えることができる、だから成功する、というような主張をしているのではありません。教育には必ず教師の予想のつかない部分があり、教師も教えながら実は学んでいるのであって、この映画での星先生の若さ、一見すると頼りない態度こそが、最終的に生徒たちの「自主性」と相乗的な効果を上げ、それなりの教育として結実したと言いたいのです。
 
それなりの教育、と私は書きました。映画の中でも言われているように、豚の飼育を通した教育には一つの正解しかないのではない。結局、正解は生徒一人一人が自分で見つけるしかないし、もしかしたら一生見つけられないかも知れない。学校で与えられる算数や理科の「問題」には必ず正解がありますが、飼育した豚を食べるべきか否かというような人生に直接関わる問題には正解があるとは限りません。この映画は、小学校の生徒に与えられる問題であっても、そもそもは正解の存在しない問題、つまり人生に深く関わる問題があっていいのだし、そこに教育の本質があるのだと訴えかけているがゆえに素晴らしいのです。
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