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ベニスに死すのellshootingstarのネタバレレビュー・内容・結末

ベニスに死す(1971年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

主人公は音楽家で、芸術家にありがちな放埒さとは対極の、バランスや規範を重んじるタイプ。知人からもっと直情的であるべきと指摘され、気にしている。

また、子どもを亡くすといった辛い過去も抱えている。

ヴェネツィアのリド島に療養のため滞在する中、絶世の美貌をもつポーランド貴族の少年と出会い心惹かれ、恋するに至る。

前半は、初老に足を踏み入れつつある主人公が家族連ればかりのリゾート地でただ一人陰鬱な雰囲気を放っている。黄昏のシーンが多いのが、老いていく雰囲気を際立たせている。

そんな中、急に発つことになるところ、トラブルによりリド島に残ることになる。美少年と別れずに済むので、気持ちが陽気になり、笑顔をたたえるようになる。だが、コレラが流行りつつあることを少年の家族に伝えられず悩みもする。

主人公の悩みや葛藤は、妄想や夢の形で挿入されている。

ヴェネツィアに残ったことで、コレラに罹り死に至るが、最期にときめきを抱き、心が救われたのは幸運でもある。命と引き換えの幸せと言える。

ポーランド貴族の美少年にヴェネツィアで恋するのは、原作者トーマス・マンの実体験というのがなかなかすごい。

スウェーデンの美少年俳優は、最初、女の子かと思う美しさだった。と思いつつ、少し調べたら、この俳優のドキュメンタリーが最近映画化されていることを知った(『世界で一番美しい少年』)。人としてではなく、商品として費消される過酷なその後が待っていたとは。ヴィスコンティは罪深い。最近問題になっている映画業界の闇がこの映画の背景にもうかがえる。

主人公の名前は、この映画で使われている音楽の作曲者マーラーのファースト・ネームから取っているようである。