まぐろさばお

ベニスに死すのまぐろさばおのネタバレレビュー・内容・結末

ベニスに死す(1971年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

有名な映画だけど万人には勧めづらいです。マーラーにインスピレーションを受けた老作曲家が古都ベニスで見た美少年をひたすらストーキングして死ぬだけの話。

とてもシンプルであり、描かれているテーマもシンプル。世界一の美少年ダッツオが美の象徴のようだという事ばかりよく言及されるけども、むしろこの映画で重要なのはそこではなく、若さや純真を失い、未成年をストーキングしてる気持ち悪い爺さんである自分の姿の醜さに初めは懊悩していたものの、最後にはその醜さ、惨めさの局地のまま死ぬことにマゾヒスティックな魂の安住を見出しているということにあるのではないかと思っている。

若き日に童貞を捨てた娼館の想い出なども挟まれるが、この時にも既に自身が同性愛者である自覚があったにもかかわらず隠して生きてきており、偽装してまで作った家族、その我が子もジフテリアで亡くしてしまう(マーラーの人生)。

自らを虚飾し偉い芸術家だと生きてきたが、常に自分の醜い部分を隠して認めずに生きてきた男が、人生の最後に最高にキモいジジイとして情けなく死ぬことにこそ魂の底から満たされた納得を感じるという最後。

三島由紀夫の割腹自殺もあるいは同じ類の到達点だったのかもしれない。

まあ一言で言っちゃえば「倒錯」で片がつくのかもしれないけれど、美とは永遠の若さ、健康な精神、純粋さなどではなく、滅びや魂の病やデカダンスの中にこそあるという結びを差し示しているような気がする。

ただ一点、ズームレンズの多用は正直あまり良いとは感じなかった。なんらかの心理的効果、精神的徘徊のようなもの狙ってのものと思うが、むしろどうしてもそこにハンドノイズが入るため物質的な荒さの方が気になってしまう。よって0.2点引きました。