ジワジワ迫る「取り返しのつかない恐ろしさ」が鮮烈に響く、ナチスの台頭を舞台にした、普通の人を描いた映画
そう、ヴィゴさんやけど、普通の人
ナチスに対して懐疑的な気持ちを持っていながらも
なんとなくパレードを見て
なんとなく勧誘されて
なんとなく自分の仕事が認められて
なんとなく出世もして
浮気と離婚も人並みにして…
善悪の判断を問う!というよりも
「流される怖さ」を克明に描く!
疑いの気持ちを多少持っていたとしても、大抵の人(善き人)は流され、気付いた時には手遅れになっているものだ、と…
そう
かつてのドイツがそうであったように
主人公の行動に於ける選択に善悪を付けるのではなく、「そうなるのも仕方がないか…」と変に観る者を納得させてしまう説得力がとにかくあるんですよね
入党にしても
離婚にしても
裏切りにしても
強い意志がなく、常に流されっぱなしのヴィゴさんは、もちろん映画的なヒーローではなく、いわば私たち一人一人に当てはまるわけで、妻や母や元教え子という女性たちの行動が、さらにその流れに拍車をかけるんですね
僕はユダヤ人
君は親衛隊
それだけ…
精神的に苦しくなれば、音楽の幻覚を何度か見るヴィゴさん
その幻覚が大きなフリとなって、ラストにとんでもない衝撃を残す「現実の」ユダヤ人オーケストラはかなり鮮烈!
実際に、収容所ではユダヤ人たちを安心させる為に囚人によるオーケストラが演奏されていたのは有名な話で、精神の逃げ場所だったハズの音楽が、ラストにとんでもない「現実」を突き付けてくるわけです
決して後戻りできない後悔の気持ちはもちろん響くんですが、怒涛の時代の中で、身の振り方とタイミングを完璧にこなす人なんて殆どいないという事
だからこそ
「流された人」によって、時には時代が作られ
そして
その悲劇は、これからも再び起こり得る、という警告
主人公は、安楽死に関する書籍で注目を集めましたが、この映画の中で安楽死させられたのは、他でもない、主人公自身の人としての精神だったのではないかと考えると、寒気がしますね
マーク・ストロングは、ほんとに最初だけのちょい役、それだけがちょっとガッカリかなw