今回はこれよりもむしろ『突貫ジジイ第5話 ある実験』が目玉だろう。『突貫小僧』の主演の青木富夫少年が主演したから『突貫ジジイ』という何とも荒唐無稽なタイトルで、やっているのもある精神病棟での一幕で、アッバス・キアロスタミに聞いた小咄を原案としたものらしい。右手と左手の人差し指が付いた人はソフトクリームが貰えるという荒唐無稽な物語を年老いた青木富夫が嬉々として演じている。我らが黒沢清は精神科医役で登場する。東京藝大の『ビューティフル・ニュー・ベイエリア・プロジェクト』時のドキュメンタリー『ACTION!』では役者に演出の意図を問われるほど嫌なものはないという黒沢清の映画術を明らかにする試みで、いつも思うが『回路』の加藤晴彦への痛烈なディスに見えて来る(あの時の加藤晴彦の意図を聞かないと私は動きません的な態度は本気でヤバかった)。のらりくらりとやりながら、最後は祈るだけと嘯く黒沢清の飄々とした監督術が垣間見える。毎回思うのだがアクションのコンテを描かず、番号だけを俯瞰で無我夢中で書いて行くあの様子が心底狂っていて、監督術も十人十色とは言うものの、尋常ではないオリジナリティは感じた。紙は思ったように舞わないらしい。『Escape to nowhere』は今は亡き吉城寺バウスシアターで撮影された短編作品で、一番活劇している。今回は初出土の『地獄の警備員』のパンフが限定30部1000円という大変ラッキーな事件もあり、性懲りもなく次回も足を運ぼうと思った次第であります。