どの自動車にもカーナビゲーションシステムが標準装備されている現代から思えば、夢のような30年も前のお話。
「次の交差点を左折して下さい」。
人工音声のカーナビの指示に従って運転していれば、何も自分で考えなくても目的地に連れて行ってくれる現代。
「自分は今、どこにいるんでありましょうか?」「月はどっちに出ていますか?月に向かって走ってきて下さい」。
月でもビール会社のオブジェでも、どこか何かをめざして、それを頼りに自分で判断して進んでいかなければ目的地にたどり着けない時代。
機械の言うとおりにしていればすべてがうまくいくのは便利な時代に生きているということなのか。それとも考えることを忘れた不幸な時代に生きているのだろうか。
タクシー運転手と業界を遊弋する有象無象、出稼ぎフィリピーナと在日朝鮮人。演じる個性的な役者さんは熱演し、リアルな物語となっている。「もうかりまっか?」「ぼちぼちでんな」で二人の関係を終わらせていれば、それはそれで「きれいな」終わり方だったと思うが、あえて「その後」の未練たらたらな後日譚を付け加えたことは、さあ、どうだったんだろう。