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ベロニカ・フォスのあこがれのhasseのレビュー・感想・評価

4.5
演出5
演技4
脚本5
撮影5
音楽4
技術4
好み5
インスピレーション4

○「光と影、それが映画の秘密。知ってた?」

凄絶なまでに洗練された白黒の画面にクラクラ酔える、それだけでもとびきりの価値がある大傑作。

戦時中、ゲッベルスの愛人となり映画スターとなったベロニカ・フォスは1955年の今、三年も出演作ゼロと落ちぶれている。彼女が人工照明を嫌い、蝋燭の灯りを暗がりの空間にともすのを好むのは、過ぎ去った栄光から目を背けたいからか。300マルクのブローチを買うシーンも、店員のおばちゃんが二人で思出話をしながら距離を詰めてくる。ベロニカの古き良き時代の記憶が目の前に立ち現れるが、ベロニカは二人の間をするりと抜けて回避する。

ベロニカを蝋燭の灯りしかない自宅から引きずり出すのはカッツ医師だ。彼女の医院の内装は過剰なまでに白一色で、感覚的に(あっここやばい空間だな)と察してしまう。彼女はここでモルヒネ漬けにされ、金をむしりとられた挙げ句に睡眠薬自殺に追い込まれてしまう。

戦時中はナチス傘下のUFAの広告塔として使役させられ、戦後は医師に有り金を巻き上げられるあわれなベロニカ・フォス。ベロニカを救おうとするも果たせず仕舞いのスポーツ記者ロベルト。医師が戦後ドイツ史の何かの暗喩として機能しているのだろうが、詳しくない私にはわからない。ただし、ドイツにおいて芸術もスポーツも戦争に支配され道具として利用された過去が、この映画の底にほの暗く漂っている気がする。

精神的に追い込まれていくベロニカが、ラストでみる「お別れのパーティー」の芸術的な白黒ショット。今までベロニカを蔑んだり、食い物にしてきた連中を黙って聞かせる美しい歌声。どんなに虐げられても芸術のパワーってのを舐めるなよという情念を、私は受け取った。大いに拡大解釈の可能性もあるが…。

前に見たファスビンダー作品同様、「その場にいなくてもよいやつ」が存在感をはなつシーンが最高。医院の朝食の席でもりもり食べてる黒人。『13回目の~』でもいたような。
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