不在

ベロニカ・フォスのあこがれの不在のレビュー・感想・評価

4.4
1982年、西側ドイツの作品。
舞台は戦後のミュンヘン。
女優のベロニカは戦時中ナチスのプロパガンダ映画に多数出演し、あのゲッベルスの愛人でもあった。
かつては名声を博したが、今では過去の功績にしがみつくことしかできず、その結果精神を病んでモルヒネ中毒になってしまった。
彼女の輝かしい栄光は、ナチスの終焉と共に崩れ去ったのだ。
ベロニカは確かにナチスと組んではいたものの、都合良く利用され、最後は捨てられてしまった。
そんな彼女の末路は、当時ナチ党を支持していた国民たちの姿にも重なってくる。

そして本作は古臭い芝居や煌びやかなセット、取って付けたようなサスペンスに突飛な編集と、まるで古き良き時代、ハリウッド黄金期のような映画に仕上がっている。
しかしこういった作品は今見返すとあまりに出来すぎていて、滑稽に思えてしまう。
この感覚がベロニカの囚われている過去、ひいてはかつてのドイツを批判するのに一役買っているのは確かだが、そこには単にそれだけではない、ファスビンダーのアメリカへの強い憧れ、そして嫉妬すらも垣間見える。
奇しくもこの映画が公開された直後、彼はベロニカと同じくドラッグの過剰摂取によってこの世を去った。
彼らは芸術のために生まれ、芸術のために死んだのだ。
不在

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