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秘密と嘘の708のネタバレレビュー・内容・結末

秘密と嘘(1996年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

第49回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した作品。重くなりそうなテーマを、淡々と重くさせることなく描いた濃密な人間ドラマです。

シンシアの声や喋り方、思ったことをポンポン言う無神経さがずーっと苦手で不快でした。彼女の孤独感やあらゆることに対する心細さが、情緒不安定で直情的な態度や言葉に出ているんだろうなぁと思いつつ、この調子で2時間20分近くも大丈夫だろうかと思ったんだけど、気づいたら物語に入り込んでました。結局ラストまで、娘ロクサーヌの仏頂面は眉間に皺が寄ったままでしたけど。

シンシアの孤独感や心細さはわからなくもないけれど、他人への依存や押しつけがとても激しく、まったく連絡をくれなかった弟モーリスに八つ当たりしていたかと思ったら、いきなり泣き崩れて抱きしめてと言い出す始末。自分からは何も行動しないのに、相手に求めてばかりの超面倒臭い女です。おまけにロクサーヌのバースデーパーティーで、周りのことを一切考えず、ホーテンスが実の娘であることをいきなり告白。自分が荷物を降ろすことで、その荷物を他人が抱えることになるという想像力の欠落に超呆れました。

ホーテンスの父親が誰なのかは、直接的なシーンでもセリフでも登場しないため、シンシアが若い頃に行きずりで黒人と肉体関係を持ったせいだと思い込んでしまっている人もいるみたいだけど、シンシアが16歳のときに黒人にレイプされて生まれたのがホーテンスという事実。だから、ホーテンスから自分の父親はいい人だったかと聞かれて、シンシアがイエスと言えなかったのはそのせいです。

先日観たとある作品では、自分は母親がレイプされて生まれた子だということを知っている女性の苦悩が描かれていましたが、ホーテンスは事実を多分知らない状態。でも、シンシアのことだから、今後またホーテンスやロクサーヌにストレートに告白するんじゃないでしょうか。娘たち、本当に気の毒です。

シンシアがロクサーヌにお節介レベルなことをあれこれ言うシーンは、本当に邪魔臭かったです。特に避妊に対して細かく口出しするところは、いくら母親でもそんなことまで娘に言うの?!と思ったものの、シンシアの過去の自分の体験からなんだなと、後になって思いました。シンシアなりの娘への思いやりなのでしょう。

それにしても、シンシアの弟モーリスの素晴らしさよ。ホーテンスに対しても「今日から家族だ」と声掛けできる優しさ。彼がいなかったら、一家離散もいいところでしょう。こういう終わり方もなかったはずです。

この作品はあらすじが決まっているものの、脚本がなくその場その場で監督が俳優とアドリブでつくり上げたそうで、シンシアとホーテンスが駅の入り口で待ち合わせをするシーンは、打ち合わせも俳優同士の面通しもなく、いきなり演技だったんだとか。固定カメラで長回しも多く、舞台劇やドキュメンタリーに近い感触がありました。

淡々と物語が進んでいくので、入り込めないと2時間20分が長いと感じるかもしれません。僕は入り込んでしまえたので、長いとは感じませんでした。
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