Sari

1000年刻みの日時計 牧野村物語のSariのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

土本典昭監督・小川紳介監督作品連続上映にて。

7月20日15:30より加藤孝信カメラマンの講演に続き、山形国際ドキュメンタリー映画祭に出品されたショートフィルム『肘折物語』(18分)を鑑賞。
小川紳介監督の病状回復の兆しがなく、未完成だったが、小川の死後、アテネ・フランセ文化センターを会場にした「小川紳介とお別れする会」で上映するために、土本典昭が最終的に手を加えて完成したラッシュの粗繋ぎフィルム。このフィルムは作品として完成したものではないと加藤カメラマンも仰られていた。小川紳介監督、加藤孝信撮影、土本典昭編集。ラストのキャンディーズ「春一番」が印象的。加藤氏は小川プロの後半に参加され『スープとイデオロギー』で撮影を担当された方。生前の小川監督の人柄(加藤しの言葉によれば人の懐に入るのがうまい)や病状などにも触れられ、ドキュメンタリーはその自由さが何よりの魅力であると語られた。

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続いて『1000年刻みの日時計 牧野村物語』製作期間13年。前半は稲の開花・受精の過程が科学映画のように映し出される。官能的な匂いが立つ稲の生殖の営みの場面に一気に惹きつけられる。そして、映画はドキュメンタリーとフィクションの境界を超え、山形県上山市牧野村において何世代にもわたり語り継がれる民間伝承の世界へと分け入る。縄文時代の遺構の発掘、村人総出で百姓一揆を再現するなど、有名俳優(土方巽と宮下順子は姉弟役)地元牧野村の人々によるフィクションドラマとして描かれる。「人と風土」という横糸に「1000年」という膨大な時間軸が縦糸となって紡がれた3時間42分、映画史上類を見ない壮大さと面白さに満ちたドキュメンタリー映画の傑作。ラストの大団円はフェリーニ『8 1/2』の輪舞のようだった。音楽の冨樫雅彦がボーナストラックのように、エンドクレジットで魅せるドラムソロはずっと聴いていたくなる。

「3時間42分の記録映画。映画とはこのような輝きを持てるのだ」(映画評論家・淀川長治)

2023/07/20 名古屋シネマテーク
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