クシーくん

シシリーの黒い霧のクシーくんのレビュー・感想・評価

シシリーの黒い霧(1962年製作の映画)
3.4
本作のキーパーソンであるサルヴァトーレ・ジュリアーノは実在した山賊で、舞台のモンテレプレはシチリア州都パレルモから17kmほど離れた山間の小さな町である。

マフィアの成立と繁栄の歴史は非常に複雑だが、その発祥の過程には山賊たちもいっちょ噛みしているらしい。

シチリアにのみこれほどマフィアが発展してきた理由の一つとして、数多の強国から長年支配を受け、搾取と圧制を強いられてきたという点が重要である。屈折した歴史の中で、シチリア人の中に権力に対する強固な反感と団結心が育まれた。
シチリアの山々を根城にした山賊達もそうした反抗心から生まれた自警団のような存在である。(諸説あり)

映画の冒頭で、独立を目指す政治家が「ガリバルディもマフィアや山賊を利用した」と言っているように、彼らは政界にも密接に結びついてきた。故に根絶することが難しいが、非常時には一種の暴力装置として利用されてきた。
山賊頭のジュリアーノもやはりWWⅡ後のシチリア独立の機運が高まる中、政治家に利用された暴力装置の駒だったのだろう。
シチリア独立運動で大きな貢献を果たしたジュリアーノは「シチリアのロビンフッド」、「モンテレプレの王」と呼ばれ民衆の支持も高かったが、
戦時(独立運動)の英雄など平和(自治権獲得)になればただの粗暴な危険人物である。

独立運動時の虐殺行為を始めとした数々の重犯罪を受け、次第に追い詰められていくジュリアーノはとうとう従兄弟であり、腹心のピショッタに殺される。物語はジュリアーノの死体見分から始まり、彼の死に残された不可解な謎へと展開していく。

上記のような背景を凡そ理解していないと正直ついていくのが非常にしんどい映画だと思う。
要するに山賊ジュリアーノの死を背景に、周りを取り巻く人々の暗躍を追った話で、山賊・政府・憲兵隊(&マフィア)による影の攻防戦を話の主軸に据えている。が、ただでさえ背景が分かり辛い上に、ジュリアーノの生前と死後で話が行ったり来たりするため理解するのがやっとという感じ。
かといって『羅生門』のように製作者側なりの最適解が提示されている訳でもないので、観た側としては非常にモヤモヤ感の残る映画だった。

ただ、ロングショットや長回しによる効果的で渋い画作りや、虐殺シーンや駆け寄る女達の臨場感は見応えがある。
内容に関しても、2回以上観れば理解も深まるのかもしれないが、正直そんな気にはなれない。
クシーくん

クシーくん