なべ

ガメラ3 邪神<イリス>覚醒のなべのレビュー・感想・評価

4.0
 緊急事態宣言下のドルビーシネマで久しぶりに鑑賞。最終電車ギリギリのレイトショーだけど客席はそこそこ埋まってる。ファンも高齢化が進み、白髪やハゲのおじいちゃんたちが目立っていた。4KHDRにお色直しされた映像は初回上映時よりいいのでは⁉︎と思えるくらいの美しさだった。

 物語のプロットや構成、イリスの造形、粘液触手、カメラワークなど、アプローチが随分アニメっぽく、前作の対レギオンよりかなり脚本をこねくり回した印象。
 初めて観たときは、腹にいちもつある人物が多すぎてノりにくかったが、さすがに何度も観ているのでそれは大丈夫。夜の渋谷の大殺戮シーンが待ち遠しかったくらい。

 一作目の鳥類学者・長峰真弓の再登板で開始早々ギャオスの復活を予感させるのが巧い。その予感から最悪の事態を想定しても、それを凌駕する災厄が訪れるからG3は恐ろしい。
 突如現れたギャオスとそれを追ってきたガメラによるバトルで渋谷は火の海。怪獣による災害で1万人を超える死者をカウントしたのはこの映画が初めてじゃないかな。ドルビーシアターの明暗の描写力とも相まって、圧倒的火力に飲み込まれる人々の描写がえげつない。大魔神の容赦なさとも通じるエグさが大映っぽいのだ。「おまえら、怪獣が現れて火を吹くってのはこういうことなんだぞ!」って映画の中の現実が結構ショック。見たことない人は大きなスクリーンでぜひ見てほしい。

 G3ではおなじみの長峰真弓や草薙浅黄以外に、ガメラを憎む少女・比良坂綾奈やギャオスを生んだ古代人の末裔たる朝倉美都、それを独自の視点でサポートするゲームプログラマーの倉田真也などが絡んでくる。
 それぞれの言い分や思惑はわかるが、意外にも手塚とおるがめっちゃ解説してくれてて笑った。浅倉美都の目論見と失敗を皮肉まじりで語る饒舌さはどうよ。笑いながらの死を受け入れる最期がとてもアニメ的だった。エキセントリックながらも部外者的視点から登場人物それぞれの役割を端的に説明する役どころはとても助かる。逆にいうと、彼がいないと物語が破綻しかねないほど複雑なのだともいえるが。この複雑な構造を良しとするか否とするかでG3は好き嫌いが分かれそう。
 前作の対レギオン戦でガメラがマナを大量消費したせいで、世界各地でギャオスが異常発生。ギャオス退治で都市を破壊して死者多数という因果が悲劇的でいい。
 今回ガメラが戦うのは邪神イリス。ギャオスの変異体だ。綾奈のガメラへの憎悪を糧に成長する姿はもはやギャオスとは別もの。どことなくエヴァ感もある。トラウマを持つ綾奈のインナースペースはよほど美味だったのか、ガメラをKOするくらい強いのに、まだ綾奈を取り込もうとするスピリチュアル怪獣だ。
 ガメラを刺した触手で火球発生メカニズムをスキャンする能力を見てもわかるように、かなりゆるいDNA構造なのだろう。いくらでも能力をアップデートできる天井知らずな進化形態がまさに邪神。

 さらなる進化を遂げようとするイリスをコントロールせんとがんばる朝倉美都は、巫女として役割を綾奈に奪われ、全くの役立たず。もうダメじゃん、終わりじゃんと思ったところでガメラ復活。人類との絆を断ち切り地球の保護を優先しようとしたものの、結局綾奈を助けてしまう。人類への情に逡巡するガメラが尊い。
 ぼくはここでウルトラセブンの苦悩を思い出しちゃったよ。恒点観測員として観測のために地球を訪れたのに、人類に肩入れして地球にとどまり、人類が先住民族を駆逐した侵略者ではないかと疑問を持ちながらも、人類を愛してしまったセブン。セブンの苦悩とガメラの逡巡とが重なって、怪獣映画ならではの感動に包まれる。スタッフはよくわかってるんだよなあ。
 大人の怪獣映画としてのツボを見事に押さえ、リリシズムさえ感じさせるG3を見逃すな!

追記
なんと、翌25日より丸ピカ他は休館。ギリギリ間に合ってほんとラッキー。てかみんな黙って前を向いているだけの映画館で感染など一件もないのにな。
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