こたつむり

エンゼル・ハートのこたつむりのレビュー・感想・評価

エンゼル・ハート(1987年製作の映画)
4.0
ひたすらに堕ちていく螺旋階段。

端的に言えば、探偵による人捜しの物語。
ですから主旋律は至って単調。聞き込み、聞き込み、聞き込みの繰り返し。しかし、それでも思わず前のめりになるのは、時折混ざる不協和音と歪む低音の所為。気付けば肌は粟立ち、一歩先の暗闇に向かって目を凝らしているのです。

そして、観客を物語に惹き込むためには。
やはり序盤が大切なのですが、そこからして特異。そして重厚。戦慄にして群青色。1987年の作品ですから新鮮味は感じないかもしれませんが、逆に言えば当時としては格別。この延長線上に某作品(タイトル書けない)もあるのかと思うと感嘆の声が漏れるばかりです。

また、ギリギリの線でミステリであるのも。
個人的には思わず手を出してしまう絶好球。断片的な映像はヒントとフェイクが渾然一体。何かの隠喩のように回転し続ける部分は足元を揺らめかせ、広大な世界から一粒の砂を捜す行為を嘲笑い、そして脳細胞に流れる電気信号。アンフェアのようでいてフェアなのが痺れるのです。

そして、主演のミッキー・ローク。
どうしても彼の名前を聞くと“猫パンチ”しか思い出せない不遜な自分でしたが、そんな先入観は愚かだと言わんばかりの絶妙な配役。それは、卵を食べるだけで怪しげな世界観を繰り出す名優ロバート・デ・ニーロに張り合えるほどの存在感。いやぁ。素晴らしいですな。

ただそれでも。ひとつだけ難点があります。
それは、エロスとタナトスが絡み合う素晴らしい演出の最中で“事件のヒント”を語らう場面。舐めるようなカメラワークで女優さんを脱がしながら真面目な話をされても…情報が頭の中に入ってこないのですよ!もっと映像に集中させてもらいた…げふんげふん。

あ。あと物語とは無関係ですが。
DVDのメインメニューを本編より先に観ない方が良いです。ちょっとネタバレ気味です。まあ、一番大切な部分を示しているわけじゃあないのですが…うーん。僕が過剰反応過ぎるのかな。

まあ、何はともあれ。
サスペンスとしてミステリとして。とても楽しめる作品でした。一部の映像は赤黒いので苦手な人は注意が必要ですが、時間にして僅かですからね。心構えがあれば許容できる範囲だと思います。まあ、過剰なる期待は裏切られるかもしれませんが…それでも、褐色と群青色が混じり合う重厚な作品をお求めならば、是非とも。
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