かおり

春にして君を想う/ミッシング・エンジェルのかおりのレビュー・感想・評価

3.9
片田舎の農村、早朝、老犬を射殺し、身支度を整え、スーツケース一つ抱えてバスに乗り込む老夫。
小説の書き出しのような静かなオープニング。
男の行き先は遠く離れた都会に住む親戚家族の家だが、すぐに関係性は崩壊する。
老人ホームに転居した男は、そこで偶然幼馴染の女性ステラと再会する。
彼女は問題のある入居者で、ホームを脱走しては連れ戻されるのを繰り返していた。
二人は結託し、車を盗み、故郷へと旅に出る。

この映画は、二人の老人が死に場所を求めて旅をするいわゆるロードムービーではあるが、道中で面白い出会いがあるとか、考え方に変化があるとか、そういう類のシナリオではない。
ただただ、自分の死に場所に向かう旅である。

男は牧歌的な農村から脱出するところから物語は始まっているが、実は本当の故郷は別のところにある。もうその村は廃墟で、男は一番早くその村を出ていったということだ。
小説の書き出しのような静かな冒頭から、一度騒がしい都会に舞台を移し、また本当に人間の存在しない廃墟村に向かう、変な構成になっている。
男は一度親戚のもとで死を迎えようと都会に転居したが、ステラに出会い、それは自分の死に場所ではなかったと気付いたのだ。

こんな風に静かに自分の死に場所を選べる人は現代には存在しないだろう。
当然失踪した二人を警察やマスコミは追うが、幽玄なアイスランドの風景や不思議な怪異がそれを阻む。
死に向かう二人を祝福するように。

静かな場所に行きたい、誰にも会いたくない、そんな気分の時に観たい、美しい映画。
ただ、まだ30代の若輩者の私には共感性に乏しく、単純にアンビエントムービーとして楽しんでしまったというのが正直な感想だ。
ある程度歳を重ねた人に、もしくは、美しい映像を観たい人におすすめ。
かおり

かおり