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血は渇いてるの3104のレビュー・感想・評価

血は渇いてる(1960年製作の映画)
3.7
♪血を吐けー 唾を吐けー

吉田喜重の監督第2作。
同時上映だった大島渚の『日本の夜と霧』の上映打ち切りの煽りを食った、ちょっと不遇な作品。

会社の首切り(今でいうリストラ)にピストル自殺という手段で抗議をした木口。すんでのところで未遂に終わるが、とある生命保険会社が木口を保険のキャラクターに起用する。
ピストルをこめかみに当てた姿の大看板、CM、そしてTVの生出演はどれも評判を呼び、保険会社の大量露出戦略もあって木口は一躍“時の人”に。最初は「僕はそんな人間じゃない」と尻込み戸惑っていた彼だが、次第に自分の状況を見失い、周囲のコントロールも利かない大きな存在になっていく・・。

人為的な戦略により踊り踊らされる人々を描く~特に前半部分~はあの大傑作『巨人と玩具』に似ている。あちらは商品を生み出し送り出す側を中心に描いていたが、こちらは“商品”として送り出される側がメイン。しかし佐田啓二演じる主人公木口の内面や、狂乱の中での心境の移ろいがイマイチ見えてこない。これは木口だけでなく、彼に異常な対抗心を燃やす記者の原田にしても同じこと。なぜそれほど「全てをぶっつぶしたい」のかがピンとこず、故にキャラとして魅力的に映らないのが残念。

とまぁ大きめの瑕疵が目につくが、「大きな流れ」に呑まれ翻弄される人や世間をシニカルに描く事には一応成功しているといえよう。生命保険会社の壁の巨大看板の存在感や良し。

主演佐田啓二は使う側が魅力を活かしきれていないような気もするが、保険会社広報課野中ユキ役の芳村真理と、木口の妻役の岩崎加根子は共に艶めかしく魅力的に描かれている。あと木口を助けた老社員役の織田政雄もいい味を出している。
終盤に出てくる新聞記者役に若き日の石井伊吉(現:毒蝮三太夫)。顔といい声といい、チョイ役でもすぐにわかるなぁ。
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