ドント

柳と風のドントのレビュー・感想・評価

柳と風(1999年製作の映画)
4.4
 1999年。勘弁して下さい。学校のガラスを割ってしまったのに父親に弁償してもらえず2週間、「今日中にガラスを換えないと退学だぞ!」と脅されて思いつめた少年の、ひとりきりのガラス運びの地獄行with強風。
 脚本はキアロスタミであり、切羽詰まった子供となればノートを返しに行く『友だちのうちはどこ?』を思い起こさせる。本作は切実でありつつ牧歌的なところも有していた『友だち~』よりもさらに切実、かつシリアス、そして危機さらに不運な作品であった。子供の「気の回らなさ」と大人の微妙な無理解はそのままに、屈託や不安、スリルを越えた恐怖が加わる。
 ガラスを弁償できないので学校で立場がなかったり、即日で仲良くなった転校生の父子関係やお金回りの良さを見て子供ながらに落ち込んだり、墓地では自分より小さな幼子の遺影を見かけて「あっ」となったりする。そういう要素がサッと入ってきて積み重なって、人生を背負うような「単独行」に厚みが出るわけで、実に見事。
 ここからさらに「ガラスをはめなきゃ退学になる……」との切迫感を抱えた、微妙にデカいガラスを持っての徒歩移動である。天気は強風、大雨。不運も重なり、もう見ていられない。下手なホラーやサスペンスの100倍くらいヒリつく。主人公は子供なので知恵など回らないし無謀なこともする。歯を噛み締めて観ていたらしく、いま歯茎が痛い。
 フリードキンに『恐怖の報酬』という、トラックでニトロを運ぶ傑作恐怖映画があった。この映画は切迫感、恐怖、不安、言葉を失うような危うさで、それと比肩するレベルと言っても過言ではないと思う。いやマジで。人生でやらかしたおじさん4人と、思いつめた少年1人なのでバランスもそんくらいだと思う。監督はキアロスタミではないが、彼以上の超ロングショットや「顔」の切り取り方など相当にすごいと感じた。いやぁいい映画でした。胃に穴が開くので二度と観たくない。
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