炭酸煎餅

ペンギンズメモリー 幸福物語の炭酸煎餅のレビュー・感想・評価

4.0
かわいいペンギンのキャラクターのほのぼのファミリーアニメ映画……だと思ったかぁい!?残念!戦争で心に傷を負った青年の旅路と再生を描いたガチにビターな帰還兵ものドラマだよ!
……という、知らない人が観たら必ず驚く、1985年のアニメーション作品。
さすがに釣るつもりでやったわけじゃないとは思いますけど、よく企画通りましたよねこれ……。

劇中では場所や時代の設定について特に細かく述べられませんが、モデルは明らかにベトナム戦争後のアメリカ。(劇中では前提になる戦争が「デルタ戦争」って呼ばれてますけど、これ「メコンデルタ」が由来ですよね)
戦場で様々な"死"を目にして心に深く傷を負った主人公・マイクが、帰還した故郷で「勇敢でカッコいい手柄話」ばかりを期待される落差に「ここは自分の居場所ではない」という落ち着かなさを感じ、独りまた故郷を後にして流浪の旅路の先でたどり着いた街での出来事を描いています。

この導入部分の約30分はちょうど「ランボー」本編の「そこまで」を描くような内容で、「パトレイバー2」のイントロや「地獄の黙示録」を思わせる緻密でハードな戦場描写(使っているのはペンギンなのに武器や装備類の描き込みがやたらと細かくてリアル)は平和ボケとも言えるような故郷のムードと強烈な対比となっており、出奔したマイクの、傷ついた心と寂寥感を抱えて往く、寄る辺無き旅路の心情を浮き彫りにする演出になっています。
またポスター画像等の通り人物はみんなデフォルメされたペンギンなんですが、よくこんだけ描き分け出来たなというくらいにそれぞれ個性があって、観ていると「あ、こんな役者いるな……」というイメージがなんとなく浮かぶくらいに「っぽい」感じが出ていたと思います。
(本当にこれ、全編通して「上手いスタッフが丁寧に描いてる」感があるんですよね……。戦場描写に限らず、平和なシーンでも車とかのメカ類がしっかり描かれてますし)

まあ正直、ストーリー全体は"よくあるパターン"の中に収まっていて「意外な展開」みたいなのは無いのですが、逆によくあると言ってもそれを綺麗にまとめるのは難しいと思いますし、そんなパターンの中にも分岐や前後はあるので「先が読み切れて退屈」というようなものでは無かったかなと思います。
ただひとつマイナス点を言うなら、ライバルポジションのジャックが最初はどう見ても「付き合ってる相手はキープしながら出世のために院長の娘との結婚話を進めようとするクズムーブ」をするキャラだったのに、出番の切り替わりで突然「キザなツンデレ」みたいな立ち位置になってたのはちょっとよく分からなかったです。突然始まるミュージカルみたいな歌パートに時間とるなら(松田聖子といえばスーパーアイドルの時代でしょうから分からなくもないんですが)、もう少しそっちは削ってキャラクターの変化の描写に時間を割くか、初めからその前提でジャックのキャラを揃えるかした方がよかったんじゃないかな……と思いました。

どういった事情なのか分からないのですが、ユニークな作品だと思うのでぜひちゃんとDVDなりブルーレイなりを発売してほしいと思います。
炭酸煎餅

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