サマセット7

怪盗グルーの月泥棒 3Dのサマセット7のレビュー・感想・評価

怪盗グルーの月泥棒 3D(2010年製作の映画)
3.8
イルミネーションによる長編3Dアニメーション作品。
監督はピエール・コフィンとクリス・ルノー。
怪盗グルーの声を、英語版では「40歳の童貞男」「フォックスキャッチャー」のスティーブ・カレル、日本語版では、落語家の笑福亭鶴瓶が演じる。

[あらすじ]
世界一の悪党を目指す怪盗グルー(カレル、鶴瓶)は、新鋭の悪党ベクター(山寺宏一)がピラミッドを盗んだというニュースに奮起!
相棒(?)の謎の黄色生物ミニオンたちと共に、月を盗んでしまおうという計画をぶち上げる!!!
しかし、計画に必須の「縮ませ光線銃」をベクターに横取りされてしまう!!!
グルーは、養護施設で暮らすマーゴ、イディス、アグネスの三姉妹を利用してベクターから光線銃を取り戻す事を計画し、三姉妹を施設から引き取るが、だんだん、三姉妹に情が移ってしまい…!!???

[情報]
アメリカのアニメ制作会社の中でも、「怪盗グルー」シリーズや「SING」シリーズで確かな存在感を示すイルミネーション製作の、初の長編アニメーション作品。

イルミネーションは、大規模予算をかけて製作するディズニー、ピクサー、ドリームワークスの劇場用アニメと比較して、より低予算で高質な3Dアニメーションを製作することを特徴とするアニメーションスタジオとして知られる。
今作は6900万ドルで製作されており、1億ドルを超えることが珍しくない劇場用アニメーション作品としてはかなりの低予算である。
(なお、日本のアニメ作品、例えばジブリ作品はより低予算で製作されており、「千と千尋の神隠し」でも製作費20億円。日本とアメリカの製作環境の違いは興味深い)。

今作は親会社のユニバーサルが謎生物ミニオンにフォーカスした宣伝やメディアミックスを大規模に行った結果、5億4000万ドルを超える大ヒットとなった。

ミニオンズは、黄色いバナナのような外見をした生物で、ゴーグルにオーバーオールという服装、一つまたは二つの目を持つ。
未知の言語を話し、子供のように遊びを楽しむ傾向を持つ。
今作のオリジナルキャラクターであり、今作のヒットと合わせて、大人気キャラクターとなった。

怪盗グルーシリーズ、あるいはスピンオフのミニオンズシリーズは現在までに長篇5作が公開されている。

ジャンルはキッズ向けコメディ。
家族もの、アクション、お宝争奪ものの要素を含む。
大人向けを公言するドリームワークスはもちろん、ディズニーやピクサーと比べても子供向けだが、大人向けのメッセージ性も忍ばせてあり、大人でも子供でも楽しめる調整となっている。

キッズ向け映画としては、批評家、一般層とも及第点の支持を得ているように見える。

[見どころ]
ヴィランが主人公!という面白さ。
ミニオンズがわちゃわちゃしているのを見るのは癒される。
子供たちの愛らしさ。
油断して観ていると、後半の家族ドラマの感動的な展開に驚かされる!!!

[感想]
いい話!!!
よく出来てる!!

勝因は、キャラクターの心情描写が丁寧な点だろう。
悪党としての成功しか頭になく、子供たちを利用することしか考えていない、いわゆるヴィランのグルーが、徐々に子供たちに絆されていく描写!!
養護施設の酷い扱いに、大人に期待しないことを覚えた子供たちが、グルーに年相応に懐いていく描写!!!
断り方から笑える、絵本!!
捨てていくつもり満々で訪れた遊園地!!
ユニコーン!!
バレエ!!!

結果、この話でこんなに感動させられるとは、という展開が待っている!!

この家族ドラマを軸に、単純にキャラクター・コメディとして楽しいので、95分間、飽きることはない。
グルーをミニオンたちのボスに設定し、なぜミニオンズはグルーに仕えて(?)いるかは、一切説明しないのも潔い。
そのことにより、グルーは案外良いやつなのかも、といった想像の余地が与えられる作りになっている。
グルーとミニオンたち、科学者、銀行、母親とのそれぞれの関係性は、悪人にもいろいろ苦労があるんだ、という裏話を見ているようで楽しい。

敵役のベクターも、絶妙にウザくて印象的だ。
風体!髪型!動作!セリフ!行動!!
全てがうざい!!!

個人的に、日本語版にも満足した。
鶴瓶の関西弁は、最初マジか!?と思わせられるが、慣れるとコレしかないと感じてくる。
ベクターの山寺宏一、アグネスの芦田愛菜など、みんな良い仕事をしていると思う。
しかし、芦田愛菜、公開時6歳って、天才過ぎるだろ。

キッズ向けだけあり、大人が観ると、ややギャグが口説い部分はあるかもしれないが、許容範囲だろう。

[テーマ考]
今作は、幼い子供に対する、大人の注ぐべき愛情について描いた作品である。
すなわち、子供たちにとって大切な時期に立ち会うこと以上に、大人にとって大事なことってあるか!!????ということだ。
子供がいて、いつも仕事が忙しい親は、身につまされることだろう。
グルーと3人の子供たちの関係性の変化が象徴的である。
これらは、グルーの子供時代の母親との関係性(生返事!!)とも対照的に描かれている。

テーマ性と今作のメインストーリーは、強く結びついていて、作品の質を高めている。

[まとめ]
キッズ向けとしてスルーするのは勿体無い、一見の価値ある悪党キャラ・コメディの佳作。

ユニバーサルスタジオジャパンには、ミニオンズパークが設けられている。
行く予定があるなら、予習として観ておくのも一興だろう。