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フルメタル・ジャケットのkuuのレビュー・感想・評価

フルメタル・ジャケット(1987年製作の映画)
4.2
『フルメタル・ジャケット』
原題Full Metal Jacket
製作年1987年製作。上映時間116分。
米国・英国合作戦争映画。
原作は、Gustav Hasfordの小説『The Short-Timers』の実写化映画(既読)

米海兵隊3092小隊の新兵たちは、いじめ侮辱が横行する環境下、過酷な訓練を強いられる。
人を殺すことを教え込まれ、人間性が奪われていった新兵のひとり、パイルはついに精神を病み自殺してしまう。その後、それぞれベトナムへ送り込まれた新兵たちだったが。。。

戦火のシーンではスローモーション技術を駆使し、兵士の死をリアルに描いていた。
戦争映画て云えば、主に残虐な戦争シーンが多いちゅうイメージやけど、スタンリー・キューブリックはこの映画で、人間が自我を失って、兵士になる過程を描いとる。
今は亡きケネディ元米国大統領は草葉の陰でこの作品をどないな気持ちで観たんかなぁ。
現地で戦う米国兵たちは、もう大義なんてどこにもあらへん。
目的があるようで実はないに等しいベトナムでの戦い。
そんな兵士を癒していたのが麻薬。
原作ではハッキリ描かれてる大麻やLSDなどが欠かせない戦場。
それがベトナム戦争の現実。
一方、北ベトナムには民族自立という大義があった。
その差は想像する以上に大きいはず。
扨、お話は本作。
冷酷無比な鬼教官でありながら、その語彙の独特さ、今や色んなとこで
『愛されキャラ』?
になっとるハートマン教官は、新人兵士たちを有らん限りの言葉でなじる。
そりゃはもう、個人のアイデンティティを白紙に戻し、人を殺すための殺人マシーンに仕立て上げる洗脳やねカルトや。
難解な映画が多いキューブリック作品やけど、キューブリックの作品じゃ、終わっとる環境下でも、ピンっと一筋の救いがある結末が描かれとるのが多いかな。
キューブリックの言葉を借りたら
”However vast the darkness we must supply our own light.”
(でけぇ暗闇に放り出されたとしても、俺達は自分自身の光を発するべきや)
この作品もその一つと云えると思う。
この映画は兵士たちが『ミッキーマウス・クラブ』を歌いながら行進するシーンで終わる。
それってのは、殺人マシーン化したはずの兵士たちの奥底にある人間的な感情を思い起こさせるような『うしろメタファー』的描写とも捉えることができる。
『ミッキーマウス・クラブ』の歌は実際に海兵隊員によって歌われた。
もっとも『MICKY MOUSE』ではなく『FUCKED AGAIN』と歌ってたけど。
『ミッキーマウス・クラブ』の歌を歌ったんは、20歳以下の少年兵で、彼らは数年前までTVで『ミッキーマウス・クラブ』を見ていたんやろな。
まだ子供やと思うとせつない。
『ミッキーマウス・クラブマーチ』はキューブリックの独自の演出じゃなく、原作にも登場しています。

んで、ジョーカーは、初めて戦闘で人を殺した戦場からの帰りには他の兵士と同じようにピュアな反面、残酷でありながら悪意のない子供ような精神状態になってるように見えたかな。
深読みを観客にさせて、考えさせられる作品でした。

キューブリック作品やしひねりを求める故にか、エンディングに使用されたザ・ローリング・ストーンズの曲 
『黒くぬれ!(Paint It, Black)』は
映画やロックファンの間では、今でもあんまり評判が良くないそうだけど、私的には良いんちゃうレベルかな。
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