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フルメタル・ジャケットのbackpackerのレビュー・感想・評価

フルメタル・ジャケット(1987年製作の映画)
4.0
【備忘】【カット回数517回】
「言葉で人間は改造される」
銃身、薬莢、弾丸、手榴弾を楽器に、炎と銃声と歩兵の歩みによって奏でるミッキーマウス・マーチは、まさに究極のマーチングバンド映画。

原作はグスタフ・ハスフォードの小説『ショート・タイマーズ』。
日本語字幕はキューブリック本人が監修を行っており、辛辣な表現になるよう指示が入っている。

「ロンドン郊外の自宅から15キロ圏内で撮影し、自宅で編集を行っていた」ということで知られるキューブリック監督。
本作もその例に漏れず、ロンドン近郊にて撮影されている。
ベトナムの町は、1930年代機能主義建築が多かったが、ロンドン近郊に同時期に建設された工場(ベックトン・ガス工場)跡地がある事を偶然発見。
解体工事中であったというこの工場の使用許可を取り、撮影したらしい。


ハートマン軍曹役のR・リー・アーメイは、元訓練教官。当初は技術アドバイザーを担当していたが、新兵オーディション中に相手役を務めてもらうと、本編同様の突拍子もない問答を始めた。
この罵詈雑言が監督の目に留まり、そのままキャスティングに至る。


主人公の〈アカの手先のおフェラ豚〉ことジョーカーは、人の二面性を体現している。
隠と陽、善人と悪人、強者と弱者。
ほほえみデブへのマンツーマンレッスンで優しさを見せながら、ドーナッツ隠し所持事件を起こしたデブへ、同期の腐れマラ共と私刑を実行する時には、渋々嫌々やっている雰囲気を滲ませつつ、何発も殴りまくる。
「お前のためにやっている」という皮を被った残酷な仕打ちは、二面性そのものだった。
この対比効果は、〈ピースマークバッジ〉と〈ヘルメットの「Born to kill」〉でも顕著に示され、戦場のミッキーマウス・マーチへと結実していく。

カメラワークはゆったりと、細かなフラッシュバックカットを使うような事は無い。
怒れる親父の正面クロースアップは本作でも多々登場。
長回しも多く、荒々しさや華やかさが溢れかえる戦争映画とは異なり、至極淡々と、その瞬間を切り出したような画面が続く。
このため、ドキュメンタリーのような印象を受ける。
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