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見知らぬ乗客のhasseのレビュー・感想・評価

見知らぬ乗客(1951年製作の映画)
4.6
演出5
演技4
脚本5
撮影5
音楽-
技術5
好み5
インスピレーション4

テニスプレイヤーの男が電車のなかで見知らぬ乗客に交換殺人を持ちかけられたことから始まるサスペンス。

マジで面白かった。全てが完成されていて、見終わった後に感無量になる。ヒッチコックではめまい、サイコについで第三位かも。裏窓と甲乙つけがたいけど。

ラストの展開が最後まで読めないのがサスペンスとして至高。サイコ野郎ブルーノが警察とガイを出し抜くのか、ガイが潔白を立証するのか。
配役の妙も活きてる。主演(ガイ)がケイリー・グラントとかジェームズ・スチュワートとかだったらガイ勝ち確なんだが、ファーリー・グレンジャーってとこが絶妙。
ヒッチコックのロープやニコラス・レイの夜の人々にも出てる役者だが、二枚目だけどどことなく煮え切らない頼りなげな雰囲気が、出し抜かれそうな展開にベットしたくなるのである。

円熟期のヒッチコックの数々の名演出。遊園地のボートでミリアムを追うブルーノを影で見せる。ブルーノの影は段々と大きくなってミリアムを飲み込むかのよう…カットがかわってミリアムの悲鳴。まさか殺した?と錯覚するほどの巧さ。断末魔ではなくアトラクションを楽しむ歓声だった。

ブルーノがミリアムを絞殺する様子をメガネに映してそれを撮るのも秀逸。

ブルーノの粘着ストーカーの不気味さも際立つ。一番おお…と感嘆したのはテニスの観客席で、一同の首がラリーで左右にふれるのにブルーノだけはまっすぐガイを捉えているショット。

映画でいろんなサイコパスを見てきたが、わりとブルーノが一番生々しいリアルさあったかも。「俺がガイの奥さんを殺したら、代わりに俺の父親を殺してくれるだろう」という思考回路がイカれてる。思考回路は破綻してるけど殺人の手際良すぎるのとかモノホンっぽいというか。

自分で父親を殺さない理由は、アリバイ工作しやすいのもあるかもしれないが、彼の場合、父親に恐怖してるのもあるんだろう。ブルーノは母親とはべったり仲良し、というかマザコン。(母親が描いたフランシス・ベーコン風の父親の肖像画をそっくりだ!とディスっているのは面白い)

ブルーノは他の年上の女性とは軽妙な会話であっという間に仲良くなれるが、年上の男性は苦手そうである。アンの父親には固い表情で原子力は終わりだみたいな話を急にふっかけ、判事には人を死刑にしたあと食べる飯はうまいか?と喧嘩になりそうな話題を切り出している。

父親への恐怖、嫌悪感に彼は囚われ、(特に父親と同じように)権力を持った年上の男性とのコミュニケーション障害を引き起こしている。以上を踏まえてブルーノの視点で見返すと面白そうだし、彼のマザコン、幼児性、社会との断絶、というテーマはサイコのノーマン・ベイツに継承されている。とも言えるかもしれない。
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