KANA

離愁のKANAのレビュー・感想・評価

離愁(1973年製作の映画)
3.8

ナチスの影が忍び寄る第二次世界大戦下のフランス。
人々が逃亡する貨物列車の中で出会った妻子ある男(ジャン=ルイ・トランティニャン)とユダヤ人の女(ロミー・シュナイダー)の純愛物語。

カラーの実写で現役SLが走るのをこんなにじっくり見たのは初めてかもしれない。
男女の前にまずそこに注目してしまった私。
牧歌的な田園風景の中をシュポッポと走る機関車の画がなんともノスタルジック。
各停車駅のちょっとしたカットも当時の様子がうかがえてとても興味深いし。
調べたら、全編に渡るロケはフランス国鉄の全面協力のもとに行われたそうで納得!

男と女はたいして言葉は交わさない。
ただ互いにフェロモンを嗅ぎ取り、次第に動物的に欲し合う。
こんな状況下ではどうしても原始脳優勢に。
同車両に乗り合わせた周りの人たちも打ち解け合い、宴をしたり、途中停車時には美しい川辺でピクニックをしたり。

でも、皆わかってる。
そんなものは真夏の夜の夢だと。
一瞬の悲劇。
そして不意に差し込まれる爆撃やヒトラーのモノクロ映像は実際のものでシビアさが増す。

白眉は数年後、2人が再会するラストシーン。
ナチス秘密警察の一室で、無言の2人。
交差する視線、緊張してギュッと握りしめる手、そして…
ロミーとトランティニャンの繊細な演技が冴える。
ストップモーションの表情は歓びと切なさが絶妙に入り混じっていていて、音楽とともにヒリヒリとした余韻が残る。

脂の乗った時期のロミー・シュナイダー。
シンプルなブラックドレスにタイトなシニヨンヘアというミニマルな出で立ちで、気品のある美しさが映えまくっていた。
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