虎舞羅ーコブラー

仁義なき戦い 広島死闘篇の虎舞羅ーコブラーのレビュー・感想・評価

仁義なき戦い 広島死闘篇(1973年製作の映画)
3.8
東映実録ヤクザ映画の代表作であり、ヤクザ映画の金字塔「仁義なき戦い」シリーズの第二弾。

・あらすじ
1950年、広島市。帰国直後に傷害事件を起こし3年間の服役を終えた復員兵の山中正治は、駅前の利権を巡り対立する博徒・大友連合会に袋叩きにあった事で対立勢力である村岡組に入る。そしてそこから、激化していく壮絶な抗争に身を投じていく…。

・レビュー
様々な方のレビューで「孤狼の血 LEVEL2」もこの作品の影響を受けていると聞き鑑賞。

やはり本作で最も記憶に焼きつけられるのは、千葉真一さん演じる狂犬・大友勝利の粗暴で狂気的な暴れっぷり。「孤狼の血 LEVEL2」の上林成浩のモデルの一人になっていると白石和彌監督も公言している通り、立ち振る舞いや粗暴な雰囲気までどことなく上林に近いものを感じましたね。己の信念を貫き、それがたとえ世にとっては悪だとしても実行に移す行動力。そして登場人物の中でも特に激しく汚い罵倒発言とその威勢。
上林と同じく“圧倒的な悪”ではありますが、やはりそこに影を落とすのは戦争の残した爪痕たち。本作でははっきりと広島・基町の当時の原爆スラムが映し出され、大友がそこに仲間を率いて通うシーンがあります。この当時原爆ドーム周辺には不法バラック街が建てられ、1978年の解体完了に至るまで多くの在日朝鮮人や疎開から帰還した人々を含む貧困者たちが住んでいました。しかも本作の撮影では作られたセットではなく、解体前の実際の原爆スラムで撮影されているとのこと。このような描写から、広島ヤクザ抗争の原点は戦争であり、数々の抗争は戦争が生み出した負の産物であるという事が読み取れます。暴力的な内容の作品ですが、その中に反戦メッセージを組み込むのは深作欣二監督然り、この頃の東映が作り出した東映実録ヤクザ路線作品のメインとなるテーマではないでしょうか。
そしてその昭和の東映ヤクザ映画の血を受け継ぎ、現代版へアップデートさせた「孤狼の血 LEVEL2」。作中で描かれる時代は暴対法成立前夜の平成初期。最恐最悪と恐れられる上林というキャラクターを生み出し、現代的な観点から戦争が人にもたらす狂気を描く。在日問題も絡ませながら、暴力で暴力を否定する。昭和の東映の血と反戦メッセージを受け継いだ「孤狼の血 LEVEL2」は傑作であり、またそれを生み出すきっかけを与えた本作も邦画史に語り継がれる名作であると再認識させてくれました。

戦争で血を流すのは、いつの時代も若者だ。権力を握った年長者は、現場の惨状を知りもせず嘲笑う。ラスト、その歯痒さを感じながら見つめる菅原文太演じる広能の眼が、いつまでも心に焼き付くのだ…。
オススメです!