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ソウル・パワーのQTakaのレビュー・感想・評価

ソウル・パワー(2008年製作の映画)
4.1
“ザイール’74”ってなんだ?
”キンシャサの奇跡””モハメド・アリ”一体なんなんだ?
こんな歴史が有ったのだ。
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それは、平行世界のように、この地球上で歴史に刻まれた史実なのだ。
現代ほど通信も報道も発達していなかった半世紀程前のこと。
アフリカの大地を熱狂させた二つの出来事が有った。
ボクシングWBA・WBC世界統一ヘビー級タイトルマッチ。
その対戦を前にして同地で行われた音楽イベント”ザイール’74”。
本来、タイトルマッチの前日に行われるはずだったコンサート出会ったが、モハメド・アリの対戦相手”王者”ジョージ・フォアマンのスパーリング中のけがで、試合は5週間延期。
その顛末も含めて、アリの姿、コンサートの準備、その中で試合の延期など、どたばたの舞台裏を描いている。
もちろん、実際の音楽祭のステージも描かれている。
映画の出演者は、アフリカン・アメリカンのミュージシャン達と、ザイールの地元アーティスト達。
そして、タイトルマッチを控えた”モハメド・アリ”。
彼らの熱気がむんむん伝わってくる。
それは、アーティスト達のみならず、現地に集まった、あるいは在住の人々も含めて、やたらとノリが良く、誰もがそのエネルギーを持て余しているかのようにヒートアップしている姿だった。
そんな映像に惹きつけられる。魅了される。
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冒頭JBのステージから始まる。
”What do you need. Sole Power!. What do you want. Sole Power!”
まさに、”Sole Power”を見せつけられるステージ(映画)の始まりだ。
集まったアーティストの中心は、”ジェームス・ブラウン”(JB)。
アメリカに集まったアーティスト達の中心にいて、皆を率いるかのようだった。
飛行機の中でも、終始愉快な仲間達だった。
アフリカン・アメリカンの彼らが、ルーツともいえるアフリカの地に向かう時、彼らが感じたことを言葉にしている。
「俺達は”帰る”のではなく、元から”居た”のさ」
そこが、彼らの居場所であることを証明する。そういうステージだったのだろう。
それにしてもスゲーな、この連中。名前を見ると、そうそうたる面々。
もう一方のスターが、”モハメド・アリ”。
タイトルマッチを前にした彼は、言葉も、行動も、既に臨戦態勢に入っていた。
黒人の代表として、そのタイトルマッチに選ばれた者として、勝たねばならないという窮地に立っていた。
こうして、役者は揃ったところで、音楽祭が始まる。
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そこから先は、底なしのノリと、エネルギーの発散だ。
ステージが始まる前のストリートでの地元の子供とのセッションが面白かった。
サックスプレイヤーが、子供たちと一緒にノリノリで楽しむシーンは、子供たちの音楽センスを感じた。このノリは、血なのか?
ザイールの母国語はフランス語なので、アフリカン・アメリカンのミュージシャンと、地元ミュージシャン、あるいは観客達との間で言葉は通じない。
その壁を、彼らの魂(ソウル)で越えられるのか。
その辺りは、ステージの様子を見れば一目瞭然。
言葉の壁なんて、音楽の前には微々たるもの。
ノリでぶっ飛ばせば、スタジアムは一体になって揺れ始める。
3日間にわたる音楽祭は、スタジアムのみならず、日中の街角でも演奏され、その風景に何か懐かしいものを感じたりする。
音楽の或る風景。
その音楽をみんなで楽しむその姿。
イイ時代が有ったのだと思う。
コンサートの締めは、JB、キングオブソウルの登場だ。
圧巻のステージで映画は幕を迎える。
音楽が、こんなにも熱いドキュメンタリーもなかなか無い。
ステージが始まる前から、アーティストが集まるところから、終始熱く、エネルギーを発散し続けるその姿に、圧倒されっぱなしだった。
それにしても、JBの親分っぷりは、かっこよく。
そのステージを大切にしていた姿が、とても大きく見えた。
最後に、エンドロールでバックステージで見せた姿は、大きな仕事(この地に、多くの仲間を連れて凱旋するという使命)を終えた本物のボスの姿だった。
カメラに向かって
「感謝している。じゃあまた」
深く頭を下げた。
最後に一発喝を入れるようにメッセージ
「この映画を見終わったら、外に出て
『俺はれっきとした人間だ!』
と叫べ!」
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アフリカが、世界の注目を浴びた瞬間だったのだ。
それは、アリであり、JBであった。
彼らが、その大地に世界の注目を集めたのだ。
そんなことが、それ以降有ったであろうか。
確かに、幾度か有った。
バンドエイドがエイズ禍に苦しむアフリカの救済を呼びかけた時。
ラグビーワールドカップで、南アフリカが地元開催で優勝した時。
アフリカの大地は、世界から一歩も二歩も遅れていることが多いのも事実だが、それは、世界から忘れられた大地であることを示してはいない。
その地には、熱い血と最高のパワーがあるのだ。
それを忘れてはいけない。
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この映画にも出てきたモハメド・アリの試合について映画が或る。
『モハメド・アリ かけがえのない日々』
試合は、”キンシャサの奇跡”と呼ばれる大逆転だったのだが、その試合も含めて、当時の様子を捕らえたドキュメンタリーだ。
この映画も、このドキュメンタリーの一部として撮影された映像から起こしたものらしい。
ならば、試合の様子を捕らえたもう一本も見てみたい。
いつか、そういう機会に恵まれることを期待して。
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