Omizu

夜の河のOmizuのレビュー・感想・評価

夜の河(1956年製作の映画)
4.7
【1956年キネマ旬報日本映画ベストテン 第2位】
芥川賞候補になった澤野久雄の同名小説を『安城家の舞踏会』吉村公三郎が映画化した作品。山本富士子を一躍スターダムにのし上げた作品としても知られる。吉村公三郎は色盲であり、初のカラー作品となる本作は不安を持たれていたが、撮影の宮川一夫のサポートもあり大好評で迎えられた。

素晴らしい。『安城家の舞踏会』でも思ったが、吉村公三郎は本当に品格がある優美な映画を作る人だ。ヴィスコンティに近い感覚のある人と言っても過言ではない。

染め物やを舞台とする故に染料の赤や青が実に鮮烈であり、途中に挟み込まれる様々な花のアップも優美そのもの。演出自体が非常に落ち着いていて優雅な上に、撮影もそれを補強している。全体として上品で美しい。

またフェミニズム的映画とも言えるだろう。山本富士子演じるきわは独身の若女将である。年下の画家からのアプローチ、取引先のおやじからの勘違いアプローチ、そして上原謙演じる大学教授との恋。そうした荒波にもまれながらも女経営者として凜とした態度を保っている。

この時代、女として独身を貫き実業家でありつづけることはこんなにも大変なことだったんだな。今もそうかもだけど。女は身を固めなきゃと言われ、ささいなことで醜聞を流される。

一人で生きることを選んだきわのアップで終わるのだが、そこには晴れない顔があった。女として生きることの苦しさを体現したような表情であった。もちろん竹村とのこともあるが、メーデーの行進を眺めながらする表情ということを考えるとやはりそういった含みもあるに違いない。

勝ち気だと言われる描写があるが、山本富士子の雰囲気も相まってそうは見えない。京マチ子的なヴァンプな強さというよりは物腰柔らかだが芯の通った強さという感じ。誰に対しても丁寧に対応するが、自分が違うと思ったことは絶対にやらない。そういう強い女を山本富士子を見事に演じていた。

不倫もの、というくくりなのかもしれないが、非常に苦い後味を残す大人のラブストーリー。好きな人と一緒になること、自分の正義感を通すこと。そのどちらを選ぶのか。相手の奥さんが亡くなってしまえば一緒になれるものなのか。彼女は何も知らなかったのに。微妙な揺れが胸を打つ。

また、女学校時代の同級生はきわのことを「彼女は私たちのあこがれだったのよ」と言う。これどっかで聞いたことあると思ったら山田洋次の『小さいおうち』だ。確かに全体の雰囲気は似ているところがあるかもしれないし、その言葉の裏にある意味ももしかしたら同じかもしれない。他人事みたいに言ってるけど惚れていたのはあなたでは?という。

鮮烈な色彩を通して優美な映像で紡がれた傑作だ。後半少しもたついたかなとは思ったものの、男女のラブストーリーにあまり興味が持てない自分としては異例なほど惹かれた。自分の中ではルルーシュ『男と女』に並ぶ傑作ラブストーリー。
Omizu

Omizu