ろく

純喫茶磯辺のろくのレビュー・感想・評価

純喫茶磯辺(2008年製作の映画)
3.8
芸人だって主役を張るぜウィーク②

宮迫です!

今ではすっかり元芸人であり、焼肉屋のオーナ―でしかない宮迫だけど、演技はなかなかいいものを持っている。これは持論だけど芸人さんはたいてい「自分に実は自信がないけどノリで誤魔化してしまう」人間を演じるのが上手い。そもそも芸人ってのがそんなものなのかもしれないけど。

で今回。吉田恵介名義である。まあいつも言っていることだけど、吉田監督はとんでもなく「ダメな奴にも優しい」。それは「空白」だって「机のなかみ」だってあの「ヒメアノール」だってそうなの。出てくる人は「ああしょうがないなぁ」って人なんだけど、その人にも優しく視線を投げかけてくれる。

今作だったら当然宮迫。ろくに働きもせずに遺産でわけわからない喫茶店をはじめちゃうまさに「ダメ人間」。そして今作はもう一人ダメ人間がいる。それが麻生久美子。これまた誰とでもすぐ寝ちゃうダメ人間。でもね、そこに吉田マジックが入るのよ。それは「ダメ人間だからってダメじゃないんだよ」ってことなの。いやダメはダメなんだよ。宮迫は結局喫茶店潰してしまうし麻生は逃げるように関東を出ていく(しかも出ていくはずなのに出て行かない)。そこにあるのは本当に優しい視線なんだよ。吉田監督は性善説に基づいているというのが僕のテーゼだけどこれもそれを補完する感じの作品。そしてその優しさがなんとも嬉しい。

人は悪いことがあるとすぐその人を断罪するけど、そんなことしなくてもいいんじゃないって気にさせられる。その人だって「いつも悪い」わけではないんだよ。たまにはいい奴なわけで。そしてその優しいところを観て上げればいんじゃないの、そう吉田は語る。甘い。甘すぎるよ、吉田。でも僕は昨今のネットリンチなんかを観ているとその優しさを求めてしまう時がある。

麻生がパチンコ屋から出てきて大きな(ほんとに大きな)どら焼きをほうばる。そのなんとも言えない表情。そういえば麻生はだらしない女の役が上手かった。顔は整っているはずなのにどこか「隙」がある。麻生はそんな感じの役をやらせると抜群に上手い。しっかりとした役なんかやらなくていいのでいつまでもポンコツな役をやってほしい。

そうそう宮迫。同じくポンコツな感じがなんとも良かった。芸人なんてもともとポンコツなんだからあまりいろんなことを求めなさんな、そう語っているような気もする。今はどうも芸人のステータスが上がりすぎているんだよ。
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