むーしゅ

ミルク・マネーのむーしゅのレビュー・感想・評価

ミルク・マネー(1994年製作の映画)
3.7
 ゴールデンラズベリー賞の最低脚本賞を受賞しそうになるも、35人もの脚本家が書き換えたという迷走作「フリントストーン/モダン石器時代」に受賞を阻まれた作品。意外と良かったですけどね?タイトルの"Milk Money"は冒頭子供達がお金を貯めるシーンで、すごく稼いだという意味で"That sure is a lot of milk money."と使っていますが、金を搾り取るという意味もあるそうです。

 高校教師の父親トムと2人暮らしのフランクは「娼婦にお金を払って裸を見せてもらう」という目的のために、友人たちと街へ向かう。しかしまんまと悪人に騙されお金を取られそうになり、居合わせたVと名乗る娼婦が間一髪で彼らを助ける。Vに家まで送ってもらうフランクだったが、彼女の車が壊れてしまいフランクの秘密基地に1晩泊まることを提案するのだが・・・という話。最後まで見るとかなりハートウォーミングな映画なのに、冒頭特に字幕担当者も困ったと思われる過激なセリフを12歳のフランクが連発するため危険信号です。いくらなんでも12歳にしてはませすぎじゃないかと思ってしまうのですが、母親を知らない彼なりに母親像を探そうとしているという部分もあり、彼の複雑な心境も理解できます。

 先ず本作は役者陣が全体的に良く、特に息子役のMichael Patrick Carter、父親役のEd Harrisがいい味を出しています。Michael Patrick CarterはHaley Joel Osmentに似た困り顔が特徴で、可愛い過ぎずクソガキ過ぎない絶妙なポジションですが、役者としては本作と"Black Sheep"(邦題は「プロブレムでぶ/何でそうなるの?!」)の2本に出て引退した様子。悲しそうな表情が絶妙で、母親像をVの中に探そうとしているシーンが特に良いです。またEd Harrisは父子家庭の父親らしく基本ダサイ親なのに、不器用かつ実直な雰囲気が滲み出ており、後半はなぜかかっこよく見えてくる不思議。レンジでチン料理を競い合って食べる姿などが微笑ましく「クレイマー、クレイマー」を思い出しました。またVを演じたMelanie Griffithは雰囲気勝ちですね。娼婦なのに高貴な雰囲気も持ち合わせており、この役が絶妙にはまっています。この3人の偽装家族が微笑ましくどの組み合わせの2人であっても当たりだなと思える良い会話劇になっています。

 ところが本作はアメリカで猛烈に評価が低く、もう少しで最低脚本賞を受賞してしまうところでした。批評家たちの内容を見てみると批判している先はだいたい本作における"性"に関してで、子供達が性に興味を持ちすぎていることなどに集中しています。確かに家族団らんでこの作品を見てしまったら、途中何度も子供の目と耳を塞ぐことになりそうですが、本作はそんなことよりも母親がいない子供が必死に母親像を探し求めていることが描きたいことで、その先にいたのがたまたま娼婦であっただけ。冒頭の少年たちの冒険も、目的は違えど「スタンド・バイ・ミー」に見えて仕方なかったです。後半の少し普通ではない家族が出来上がっていく姿は目頭が熱くなりぐっとくるものがありましたし、偏見持たずに見ればかなり心に刺さると思うのですがね。父親と息子とは、そして母親と息子とは、ということを考えさせられる作品だと思います。

 そういえば「スタンド・バイ・ミー」でクリスが停学になった理由は、Milk Moneyを盗んだこと(実際には先生の着服)でした。監督がリスペクトしたのかどうかはわかりませんし関係ないのかもしれませんが、なんとなく「スタンド・バイ・ミー」を感じてしまう作品でした。
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