なべ

ヴィデオドロームのなべのレビュー・感想・評価

ヴィデオドローム(1982年製作の映画)
3.5
 昔夢中になったけど、そのうち熱が冷めるように観なくなったビデオドローム。レーザーディスクは擦り切れるほど(非接触式ピックアップだから擦り切れないんだけど)観たけど、DVDがリリースされる頃には飽きてて、もう買い直すことはなかった。
 熱狂してた当時は、大好きなデボラ・ハリーが脱いでるだけで観る理由になったし、リック・ベイカーのエグめの特殊メイクがたまらない興奮をもたらしてくれたものだ。何より、ビデオを通じて現実と妄想の境界がなくなっていくって話が、時代を先取りしていて、後に起こるサイバーパンクを予感させてくれてたんだよね。
 今となっては締まりのない脚本がちょっとだるいし、催眠風シンセ劇伴もチープで、ベータのビデオカセットを知らない若い人に勧められるようなシロモノでは…あれ、あれれ、おもしろいかも。ああ、なるほど。いつの間にか時代の方がこの作品に追いついたのか。
 当時は意味が全然わからんと言われていた脚本が、VRやARが現実になった今、すごくSF的な現実味を帯びてるやん。 さすがに映像が脳内に溶け出してがん化するというのはないけど、ビデオドロームの世界観がまったくのデタラメとは言えない世界線にいる気はする。だって、夜な夜なVRゴーグルを装着し、立体視でAV鑑賞に勤しむ同僚などは、すでにビデオドロームの世界に足を踏み入れているも同然だもん。
 1983年のあの頃、超現実が現実を侵食するのは精神に異常をきたすほどのストレスだったのかもしれないが、2021年の世界ではもっと快なる肯定感をもってその侵食は受け入れられている。

 「ブラウン管は網膜で頭脳の一部。画面に現れたものは見た者の体験となる。テレビは現実だ。現実以上に」「死ぬのは怖くないわ。次の段階に進む時よ」「ビデオドロームに死を。新人間よ、永遠なれ」
 わはははは、どうよこの香ばしさ。だいたいどんな映画なのかわかるでしょ。
 ドラえもんの四次元ポケットのように、マックスの腹にポケットができるんだけど(ドラえもんのと違って縦に隠部のように裂けてる)、マックスはうっかり護身用の銃を腹の中に入れちゃうのね。何がうっかりやねん!と思ったでしょ。でもうっかりなんだから仕方がない。ちょっとした逡巡を感じさせるジェームズ・ウッズのうっかり演技は見逃さないでね。あ、後日銃を取り出すシーンがあるからご心配なくw
 他にも、有機的に飛び出してくるテレビ画面に頭を突っ込むシーンや、腹から取り出したハンドガンが文字通り手と一体化する描写、ビデオドローム化した銃弾を浴びせられた敵が、全身からガン化した内臓を噴き出すシーンなど、滑稽なのにガン見してしまうアナログ感溢れる特殊効果は完成度高すぎ!
 最近はあまり見かけなくなったジェームズ・ウッズがブイブイいわせてた頃の勇姿を見られるのも嬉しい。ロボコップ?って一瞬思うけど、あれはピーター・ウェラーだからね。
 終わった時に訪れる「今のはなんだったんだろう?」と途方に暮れるクローネンバーグ節はちゃんと味わえるよ。

注:ちなみにタイトル表記はLDやDVDに倣って「ビデオドローム」とした。公開時のパンフは「ヴィデオドローム」だった気がする。
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