note

ウォール街のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ウォール街(1987年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

証券会社に勤める営業マンのバドは、出世を夢見ていた。ある日バドは営業のために、憧れの投資家ゴードン・ゲッコーのオフィスを訪れる。ゴードンは始めバドに興味を示さないが、バドが父の勤める航空会社ブルースター航空の内部情報を話すと、ゴードンは興味を示し、バドは注文を取ることに成功するが…。

80年代の劇場公開時、劇場で鑑賞以来の再鑑賞。
当時、自分は高校生で株式市場や投資などサッパリ分からなかったが、欲に塗れた汚い大人たちの攻防は面白かった記憶がある。
世はバブル景気で、高級スーツに高級車、高級マンション所有がステータス、デートするなら高級レストランに見栄えのいい女を連れて…と、日本中が好景気に浮かれ、男たちは欲望剥き出しだった。
思えば、本作に見られるアメリカの好景気に品質の良い日本製品が「made in Japan」ブランドとして売れ、日本にも好景気が押し寄せたのだ。

本作ではウォール街で働く若手証券マンが、景気に浮かれた虚栄の世界に憧れる。
80年代にして、この格差社会への批判と資本主義への警笛。
社会派オリバー・ストーン監督の主張は今の世でも古びてはいない。
今見ると、ヤッピーの成り上がりと没落を描いた「仁義なき戦い」であるが、飽和する資本主義を批判する社会派な秀作である。

ゴードンはバドの功名心につけこみ、インサイダー取引を行うための情報収集を指示する。
バドはゴードンが株価を操作するためのスパイであり、完全に違法行為だ。
バドは友人の弁護士法人のオフィスに清掃員の監督として忍び込み、企業秘密をゴードンへ提供する。
悪事には変わりないがゴードンとバドの関係は師弟関係かバディのようになり、しかもトントン拍子で大儲けするから痛快。
前半はさながらピカレスク・ロマンである。

報酬を得てリッチになったバドは、ゴードンから紹介された美しいフランス人女性ダリアンと恋仲になり、高層マンションで同棲し栄華を極める。
しかし、その暮らしは実は虚しい。
真価の解らぬアートを金に飽かせて収集するシーンもそうだが、それを象徴する最たるものはバドとダリアンが自宅で寿司を肴に高級ワインで晩餐を食すシーン。
豪華な装飾と家具を揃えた高級マンションで、NYでは貴重な生でも食べられる高級食材や年代物のワインを用意したとしても、決して会話は盛り上がらない。
金やモノに満たされていても心が通い合わず、満たされない。
2人は身の丈に合わぬ違和感に笑い合うだけで、そのまま心の隙間を埋めるようにセックスシーンとなる。
人間の豊かさとは、高級品に囲まれることではないことを視覚的に表した見事なシーンだ。

バドは自分の企画として、父の勤める経営破綻寸前のブルースター社の買収をゴードンへ提案する。
始めは気乗りしないゴードンだったが、父親の会社を救いたいバドが強気に説得し、ゴードンは買収を決める。

しかし、ブルースター社の経営再建会議でゴードンの嘘が判明し、バドは騙されていたことに気付く。
ゴードンはブルースター社を再建する気なと全く無く、会社を解体して航空機や設備を全て売り払い、自分の利益にするつもりだったのだ。

バドは憤慨し、ゴードンの庇護のあったダリアンも家を出ていく。
さらに父が病で倒れ、見舞いに訪れたバドは父に会社を救う事を告げ、ゴードンに対抗する計画を立てる。

バドは密かにゴードンのライバルである投資家ワイルドマンのもとへブルースター社の組合長たちを引き連れ、ゴードンが買うブルースター社の株を暴落させ、ワイルドマンが安値で買い取る計画を持ちかける。
航空会社を労働者組合の同意のもと買収でき、かつゴードンを貶める計画にワイルドマンは応じる。

決戦の日、バドが証券会社の同僚にブルースター社の株を買うよう指示すると、マーケットはすぐ反応し同社の株価は高騰。
ゴードンは買収のため高騰中の株を買い続けるが、頃合を見て、バドが同僚に売りの指示を出すと売り注文が殺到。
今度はブルースター株は大暴落。
ワイルドマンは最安値で株を買い付け、それを知らないゴードンは逆に安値で持ち株を売却し、大損害を出す。

翌日のニュースでワイルドマンがブルースター社を買収したことを知ると、ゴードンは激怒。
一方、父の会社を救い、ゴードンにも報復できたバドは意気揚々と出社するが、自室に着くと、証券取引委員会と警察が待っており、バドはインサイダー取引容疑で逮捕される。

後日、バドとゴードンは2人きりで密会。
裏切りに激怒するゴードンは、バドを叱責し、殴り倒す。
ゴードンが去った後、バドは近くの店に入り、待機していた証券取引委員会の面々に、密かに録音していた不正取引の証拠となるゴードンの言葉が入ったテープを渡す。
後日、退院した父に車で送られて、バドは自らの裁判に向かう姿で映画は終わる。

何といっても、架空の人物にも関わらず、金欲の権化ゴードン・ゲッコーのキャラクターが強烈。
道徳心が破綻しており、非情で口汚く競争相手を論破。
「欲は善である。欲は正しい。欲は導く。欲は物事を明確にし、道を開き、発展の精神を磨き上げる」と豪語し、企業買収と吸収を繰り返して利益を上げ、生き馬の目を抜く業界に君臨する。
暴力こそ無いが、やっていることは縄張りを広げ、勢力を拡大することに執着する武闘派ヤクザやマフィアと何ら変わりはない。
その巨大なダムのごとく金を溜め込んだゲッコーの帝国が、バドというアリの一穴で崩壊するのもまた痛快。
何とも短期で極端な栄枯盛衰である。

株式投資の仕組みが素人には難しく、まるで魚市場のように猥雑な市場の極端な描写が難点である。
しかし、金欲主義だけでなくゴードンのライバル、ワイルドマンを通じて資本家と労働者の歩みよりと和解も描かれている。
現代であれば、もっと正しい金の使い道も描かれるべきだろう。

現在でも見応え十分な作品だ。
note

note