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モンスターのnetfilmsのレビュー・感想・評価

モンスター(2003年製作の映画)
3.6
 1986年フロリダ州マイアミ、幼い頃の夢を語る8mmのポートレイト、女優を目指し挫折した女はその後、娼婦となり、13歳の頃から男に身体を売る生活を続けていた。ある大雨の午後、突然自殺したくなった娼婦のアイリーン(シャーリーズ・セロン)は、デイトナのゲイバーになだれ込む。タオルを貸してと言いながら、一番安いビールを頼んだアイリーンの姿。その背中を孤独に飲み明かしながら、見ていた同性愛者のセルビー(クリスティーナ・リッチ)は、カウンターで飲み始めたアイリーンの脇に座る。この店がゲイバーだと知ったアイリーンはその様子に激昂し、セルビーに辛く当たる。10ℓのビールを中ジョッキに並々と注ぎ、朝まで語り合った2人。女はトラックの運転手で、高圧洗浄の仕事をしていると嘘を付くが、セルビーはそんな女の姿を不憫に思ったのか、家に泊めてシャワーまで使わせてくれる。ダブルサイズのベッドの左側で待つセルビーの嬉しそうな横顔、やがて2人は同じベッドの中に入る。頭の真上に置かれた黒い十字架、信心深いカトリックの一家は厳格な倫理観を持つ家庭だが、明らかに娼婦の格好をした娘の友人に表情が曇る。その日の夜、2人はローラースケート場で待ち合わせる。Journeyの『Don't Stop Believin'』が流れる中、チークタイムに踊り続けた2人は、リンクの外で情熱的なキスをする。それが2人の愛の生活の始まりだった。

 今作は元娼婦の連続殺人犯、アイリーン・ウォーノスの生涯を映画化した実話に他ならない。セクシュアル・マイノリティのアイリーンは初めて自身の秘められた性をオープンにしたことで、これまでの異性に虐げられてきた数々の苦い体験がフラッシュバックし、彼女を苦しめる。終盤までアイリーンの生々しい体験が明らかになることはないが、最愛のセルビーとの息苦しい車中で、彼女の静かな苦悩の独白が始まる。彼女が生まれて間もなく離婚した父親は重度の精神障害者で、彼の友人のヴィクター・ヴォーンにレイプされ、兄にも犯されたらしい。彼女の幼少期のトラウマは常に殻を被り、露わになることはなかったが、ようやく女性として人間としての幸せを掴みかけた矢先、突然自我が沸々と目覚める。アイリーン・ウォーノスを演じたシャーリーズ・セロンの演技は、男に頼らず生きていこうと誓いながら、そんなダメ男たちの毒牙にかからなければ生きていけないヒロインのアンヴィバレントな焦燥感を残酷なまでに伝える。娼婦から一般社会に出ようともがき苦しむヒロインは結局、自身の悲惨な境遇からは1mmも逃れられない。問題は、2人の馴れ初めや出会いの描写や、その後の束の間の幸せの描写があまりにも短過ぎ、その後の転落の描写がやや唐突に始まることに尽きる。彼女の独占欲で息苦しくなったセルビーの描写も、もう少し丁寧に描写すればクライマックスの悲しき別れはもっと活きたはずだが、実話を元にした物語の陰惨な結末には絶句し、思わず涙腺が緩む。今作の演技でシャーリーズ・セロンは見事、アカデミー主演女優賞に輝いた。
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