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海角七号/君想う、国境の南のakrutmのレビュー・感想・評価

4.1
台湾最南端の恒春を舞台に、台北でミュージシャンの夢破れ故郷に戻ってきた男性が、リゾートホテルで開催されるコンサートに地元バンドのリーダとして舞台に立つまでを、地元バンドのマネージャーにさせられてしまった売れない日本人モデルとの恋愛、町の人々のエピソード、そして宛先不明の郵便物にあった恋文を通じて明かされる日本統治時代の日本人教師と台湾人女生徒との道ならぬ恋を絡めながら描いた、ウェイ・ダーション監督の長編デビュー作となる恋愛ドラマ映画。

本作は、現在まで台湾の自国映画歴代興行成績1位である大ヒット作であり、それまで低迷していた台湾映画の復興を象徴する映画として高く評価されている。しかし、ウェイ・ダーション監督が元々撮りたかったのは、日本統治下の台湾で起きた抗日蜂起である霧社事件を描いた次作『セデック・バレ』だったが、その製作資金が得られなかったことから資金を稼ぐために撮ったのが本作なのである。

内容的には、低迷期にあった歌手のファン・イーチェンを主役に起用して音楽の力をふんだんに利用したミュージック映画(中孝介も出演するコンサートでの演奏シーンは印象に残る)でありながら、戦時中と現在における恋愛を重ねることで、さらに恒春の風光明媚な映像も手伝って、様々な好みの観客にアピールできる娯楽性の高い映画に仕上がっていて、それらが大ヒットに至った要因であろう。過去の教師と教え子の恋愛のエピソードが本プロットとやや乖離してしまっているのが残念ではあるが。ファン・イーチェンだけではなく、地元バンドのメンバ達も味わい深いし、田中千絵もなかなか頑張っている。ウェイ・ダーション監督からオファーを受けて出演した本作によって台湾で認められ、現在は台湾や中国で活躍している。

しかし、本映画で特に注目すべきなのは、中国語、台湾語、日本語、英語などの複数の言語が意図的に使い分けられているという言語面での特徴である。おそらくそれまでの台湾映画では(特に台北を中心に描く限りでは)ほとんど意識されなかった面であろう。冒頭のシーンでいきなり恋文を読む日本語のナレーションが入るので、日本語吹替版を見てしまったと思ったほどである。台湾の現実(中国語と台湾語の両方を話すが、台北では一般的に中国語が多いのに対して、特に台湾南部などは台湾語が中心に話されている)や、過去の日本統治時代を意識した言語使用は、台湾のアイデンティティを強く意識しているウェイ・ダーション監督ならではの特徴であろう。
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