櫻イミト

アジアの嵐の櫻イミトのレビュー・感想・評価

アジアの嵐(1928年製作の映画)
4.0
エイゼンシュテイン監督、ドヴジェンコ監督と並び、ソ連サイレント期の3大名匠に数えられるプドフキン監督の活劇エンターテイメント。史上初めてモンゴル・ロケを敢行。原題「Potomok Chingis-Khana(ジンギスカンの後裔)」。

1918年。モンゴルの里に住む青年バイールは、父から譲り受けた珍しい銀狐の毛皮を市場を仕切る英国白人から不当に奪われてしまう。怒ったバイールは大暴れをし軍隊に追われる身となるが、山中でモンゴル独立義勇団と巡り合い一員となる。時は立ち、この地に駐屯し侵略の隙を伺う英国軍の司令官は友好を装いラマ教(チベット仏教)の儀式に参列していた。その頃バイールは抗戦の末に捕らえられ銃殺を待つばかりだったが、戻った司令官が所持品を確認すると、彼がヂンギスカンの子孫であることが判明するのだった。。。

初めて観るソ連のサイレント活劇、さらに珍しいモンゴル・ロケでかなり楽しめた。プロパガンダ映画の数々を観てきて、この技術を活劇で活かしたら面白いだろうなと思っていたが、案の定のパワフルな出来映えだった。テンポも画の切り返しも良く、ロシアの広大なロケーションを活かしたロングショットも上手い案配で挟まれている。ストーリー展開はやや粗削りで、中盤に分節が感じられるのとクライマックスへの流れが強引なのは気になった。しかし全体的には、東が主役で西が敵役と言う当時としては意外な設定、主人公がヂンギスカンの末裔と言う荒唐無稽ロマンなど、とても独創的なエンターテイメントで面白く観ることが出来た。

特筆すべきはモンゴル・ロケで、貴重なチベット仏教の寺院、仏像、祭りの様子がそれなりの時間をかけて映されている。当時はハリウッドでも中国やインドと言ったエキゾチックな東洋趣味が喜ばれたが、本作は本物のモンゴル文化を記録しているだけにリアルな迫力があり、民俗学的にも貴重な資料となっている。

英国資本主義に対するモンゴル人民の抵抗という図式が革命プロパガンダを成し得ているのかもしれないが、クライマックスに風が味方する神秘は非科学的で共産主義など微塵も感じられない。その分、気にせずに活劇を楽しめた。

ソ連の映画技術をエンターテイメントに注いだ独創的な傑作。
(民俗学や仏像が好きなのでスコアを+0.5)

※当時のソ連のモンゴル地区に対するスタンスは今後勉強の必要あり。
櫻イミト

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