くりふ

別れの曲のくりふのレビュー・感想・評価

別れの曲(1934年製作の映画)
4.0
【ショパンの「別れの曲」がそう呼ばれるわけ】

ショパンの「練習曲作品10-3」は映画でもよく使われており、私は今回『心のともしび』でのそれが印象的だったので、曲の成り立ちを描く本作をみようと思ったのですが…そもそもこの曲が日本で「別れの曲」と呼ばれるようになったのは本作の影響なんですね。

本作はフランス語版とドイツ語版が同時制作され、前者の原題が『La chanson de l''adieu』で、日本では1935年に公開されて大ヒット。邦題は原題通り『別れの曲』だったので、これが親しまれ曲のタイトルともなったそうです。

私がみたのは2010年に日本初公開となったドイツ語版ですが、これ、いいですね。全体かわいらしい映画なんですよ(笑)。アイドル映画の方法論に近い気がします。

出てくるのが歴史上の有名人ばかりでそのイメージを利用して、悪く言えば記号的に人物を描いていますが、役者さんが適度に血肉化していてすんなりと入り込めます。

いわゆる楽聖映画で、正確な伝記映画とはちょっと違いますね。

ジョルジュ・サンドなんて宝塚みたいでした。実際、男と張り合うために男装していた人ですが、なんかこう、存在自体が見得を切るかんじなんですよね(笑)。決めポーズから決めポーズへの移動、みたいな。でもこれが見ていて楽しいんです。

ショパンは出来過ぎってくらいの真直ぐな愛国者で、女にも不器用ですが、演じるヴォルフガング・リーベンアイナーは本当に真直ぐな男に見えます。この演技が通用した時代ならでは、でしょうね。

彼は後に監督となりトラップ一家を描く『菩提樹』を撮っています。個人的に『サウンド・オブ・ミュージック』より映画として好きなので、これは嬉しい驚きでした。

リスト役もいかにもでイカシてました(笑)。ショパンと二重奏しながらみるみる友情を育むシーンは見事だと思いましたが、これちゃんと、ラストの伏線にもなっているんですね。昔の映画はこういうところがあなどれない。

有名人ではないですが、ショパンの先生が達者な演技を始終みせ、またピエロとしての任を最後まで全うして拍手モノでした。

同じくショパンの恋人、健気なコンスタンティアも「有名人ではない」からラストである決断をすることとなり、ここに被るあの曲が…ホント、泣けます!

この二人の、アイドル映画に入れなかった哀しみが、本作にちょっとした苦味を添えていますね。

もちろん、音楽は全編にショパン炸裂。耳がほぐれる映画としても大いに価値あり、ですね。

<2014.5.20記>
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