ひゅうどんこ

その木戸を通ってのひゅうどんこのレビュー・感想・評価

その木戸を通って(1993年製作の映画)
3.7
 いきなり山本周五郎のブームが舞い降りてきたので鑑賞。

山本周五郎の小説は「樅ノ木は残った」しか読んだことがないのだけど、他の映像化された作品を観て、状況や立場が変わっても、主要な登場人物の心根に流れる清らかな一本筋は変わらないところや、市井の民や下級の武士への描写が優しいところなど、あまり知らないなりに好感は持っていた。


 近年ではどこかとぼけた役を好演し続ける中井貴一だが、そういう意味ではまだこの頃は、脇の井川比佐志や岸田今日子の域に及ばない。

 監督は市川崑。
この作品の概要についてはちょっと普通の作品とは違ってて、つい10年くらい前にDVD化されるまで、一般公開の予定もなく幻の作品とも呼ばれていたらしいけど、市川監督後期の作品としては出色の出来ではないかな。

時折挟まれる独特なカット割りなど、一目で市川作品と分かるシーンも健在。


 本作で最も重要な人物 ふさを演じるのが浅野ゆう子。
彼女は、1980年年代中盤あたりから徐々に知名度を上げ、80年代後半トレンディの女王の名声を欲しいままにして以降は、各メディアに出ずっぱり。
Wikipediaで浅野ゆう子を調べても、本作の出演経歴が漏れているほど多数の作品に出ている。

ただね、本作の製作、公開の1992年~1993年あたりにかけての出演記録が殆んどないんだな。
あくまで私の考えだけど、この間ほぼ文化活動だけを仕事として、出演予定をセーブしながら本格的な演技指導を受けたのかもしれんと睨んでいる。

浅野ゆう子へのオファー経緯は分からないものの、(たぶん)女優として一皮剥けた彼女は妖しく美しく映る。
何かを思い出す、そして正気に戻る、このONOFFシーン見てゾッとしたほど。

先年、市川監督は『竹取物語』を撮っているが、本作も同じような匂いを感じさせるところがあり、両者を較べる人々からの評価は本作の方が圧倒的に高い。


 結末の解釈を巡る考え方は色々なようだが、本作が作られた背景、優れた撮影と美術、撮影時点でのキャスト陣のキャリアとスキルを考え合わせながら観ると、世にあまり知られていないのは惜しい気がする。

 余談だけど、あの出川さんもほんの一瞬出てるよ。元々役者志望だった当時のあだ名は「エキストラの帝王」だってさ🤭



  
参考資料
https://youtu.be/nAC-ghu3axM
(※2022年5月15日、上記動画が削除されているのを確認した)