菩薩

死者からの手紙の菩薩のレビュー・感想・評価

死者からの手紙(1986年製作の映画)
4.6
コンピューターのトラブルと7秒の人為的なミスによって壊滅した後の世界が舞台のディストピア映画。これがアメリカ映画ならば、人々はそれでも逞しく、残された少ない資源を奪い合って更なる争いを重ねたり、そこに救世主が現れてヒャッハー!したりするのだろうし、日本の場合でも、ロン毛野郎が詰めればどう考えたってシェルターに入れるのに、格好つけたせいで北斗神拳正統継承者の座を弟に奪われたりするんだろうが、ちゃんとロシア映画らしく、人々は地下で暮らし、自らの呪われた運命を嘲笑しつつも、来るべき死を刻々と待ち構え、耐え切れぬ者は拳銃で自殺をする。地上は核の汚染によりガスマスク必須、荒廃した都市、横たわる多数の死骸、水没した図書館(?)など、視覚イメージが非常に強烈。人類に残された最後の希望たる中央シェルター、そこに入れる者にも残酷な線引きがされる。絶望が蔓延する世界ではもはや価値をなさない過去の芸術と人々の遺産、それでも迎えるクリスマス、救世主が訪れない世界でも、廃材で作ったツリーは燦然と輝く。自らの命と引き換えに、未来ある子供達に道を示す老人、冷戦の真っ只中、あり得たかもしれない最悪の世界、冷戦が終わった今でも、核の脅威が取り除かれない限りは、この作品が鳴らす警鐘は響き続ける。タルコフスキーの作品の生・死のバランスを99%死側に寄せればこれになるし、0.8倍速にすればおそらくソクーロフになる。にしたってロケ地、この為に街一個潰しましたって言われても納得、傑作。
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