レインウォッチャー

愛・アマチュアのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

愛・アマチュア(1994年製作の映画)
3.5
かつてマリア様から色情狂とお告げを受けた元尼僧で官能小説家志望で処女でドリルが似合うI・ユペール。設定渋滞すぎて次のインターチェンジも映画の終わりも見えません。

上記の彼女・イザベルと、路上で目が醒めたら記憶喪失だった彼・トーマス(M・ドノヴァン)が偶然に出会う。

そんな奇縁から始まる物語はラブストーリーでもありサスペンスでもあり…なのだけれど、常にどこか妙な浮遊感と共にある。舞台はニューヨークで、ユペールちゃん様含めみんな英語を喋るのだけれど、ヨーロッパ映画的なアンニュイさを湛えているのだ。
生活感に乏しく退廃的な室内や、夜に街を染めるブルーの照明が、現実から数ミリ遊離して二重写しになったような都市の夢の貌を演出する。

次第に明らかになるトーマスの昏い素顔と、関連するトラブルに巻き込まれながら、これは自らに課せられた使命なのだと信じるようになるイザベル。
彼らが辿るのは《再生》と《運命》の物語だ。イザベルとトーマスはいずれも「生まれ直し」を経験した者たちとして引力に引き寄せられ、新たな使命を共にするようになる。もしもあの日、あのカフェに居なかったら。人生におけるあらゆる選択が意味を持って、還るべき場所へと収束していくような感覚。

イザベルとトーマスは、何度もチャンスがありながら結局セックスを遂げなかった。そのことからも、トーマスを保護しセカンドチャンスを支えようとするイザベルはむしろ母性的な存在にも見え、もう一人の重要な役割を果たす女性と合わせると、キリストと二人のマリアのような線から読み解くこともできるかもしれない。ただ、そんなことよりも定期的に挟まる「なにそれ?」みたいな珍展開に目を奪われがちのは確かなんだけれど。

そもそもタイトルの『AMATEUR』って何なんだろう。性体験も作家も見習いのイザベルのこと…とも思えるし、自らの人生をコントロールしたり他者を理解することにおいては誰もがプロフェッショナルになど成り得ない、というような気もしてくる。

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あと何気にサントラがオルタナ祭りである。
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインからペイヴメント、PJハーヴェイにリズ・フェア、さらにはジーザス・リザードて。劇伴がニューエイジ風な中、ふと滑り込んでくる彼らのサンドペーパーのようなギターの音像が耳を引く。