とうじ

ふたりのベロニカのとうじのレビュー・感想・評価

ふたりのベロニカ(1991年製作の映画)
5.0
多分見るの5回目とか。初めてみたのは高2。
「今この映画で描かれていることはフィクションであり、全ては閉じた世界の中で起こっている」ということを自覚している映画はたくさんある。それは、我々観客が住む外部の世界に、より効果的に物語を接近させる意志を持つが、本作は、そのような目的を意識していない。
本作の主人公は、外部<現実>から遮断された球体の中心で浮遊する力を突如奪われ、安定を取り戻そうと、地平線のない地面の上を駆けずりまわりはじめる。その彼女の苦しみに本作は着目しており、そういう意味で、かなり酷な映画だと言える。
そして、その苦しむ姿こそが、現実に生きる絶望を反映しているのであり、その描写は、フィクションの世界の純度の高さを保ち続けるからこそ、ものすごい生々しさを孕む断片となっている。
どこが絶望的なのかというと、本作で起こる数々の出来事は、そもそも組み合わないパズルピースとなって主人公に押し寄せてきて、彼女はそれらの圧倒的な実存性の奔流に飲み込まれて溺死しないようにもがくのがやっとだからである。そこで、困惑する主人公に対する指標っぽいものとして機能するのが、絵本、人形劇、音楽、などの芸術媒体であり、その芸術の根底にあるのが「愛」である。しかし、その「愛」がそもそも不条理なものであると気づいた時、それらのまやかしは、苦しみと絶望に対抗するには力が弱すぎるということにも気づいてしまう。
映画のみならず、何かをクリエイトする人は絶対に観たほうがいい名作。
とうじ

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