櫻イミト

ストロンボリ/神の土地の櫻イミトのレビュー・感想・評価

ストロンボリ/神の土地(1949年製作の映画)
3.5
イタリア・ネオリアリズモのロッセリーニ監督(当時43歳)と、ハリウッドの大スター、バーグマン(当時34歳)が邂逅した凄まじい一本。2人が大スキャンダルを起こしたいわくつきの問題作。

戦時中にゲシュタポを逃れリトアニアからイタリアに密入国したカーリン(バーグマン)は難民収容所に入れられていた。何とかそこから抜け出したいと、そこで出会った若いイタリア兵士アントニオと結婚し、彼の故郷の火山島=ストロンボリに向かう。しかし、駆け出しの漁師であるアントニオの貧しい住居、退屈な島の暮らしと閉鎖的な田舎社会にだんだん嫌気がさしてくる。さらに、火山噴火の危険に遭ったことで我慢が限界を超え、島からの脱出を決意する。。。

前年の「ドイツ零年」(1948)で過激な前衛ぶりを発揮したロッセリーニ監督が、今作では過激な手法で、絶望の末の宗教的感情の目覚め=現代の神話を表現している。

本作の成り立ちは、ロッセリーニ監督の「無防備都市」(1945)、「戦火のかなた」(1946)を観て感動したバーグマンが、自らの出演希望の手紙をロッセリーニ監督に送ったことから始まった。なるべく職業俳優を使わないネオリアリズモにとって、ハリウッド方式の演出でロマンティックな役柄を演じてきたバーグマンはまさに水と油だった。それを逆手に取る形で、素人俳優だけのリアリズモな島に、異物としてハリウッド女優を投入する事、そのドキュメントを映画設定になぞらえたのが本作と言える。結果、あくまでリアリズムは保証されるという仕掛けである。

果たして、その挑戦的な試みは楽しめたし、マグロ漁と火山噴火の派手なリアリズムも本作が目指した“現代の神話”にスペクタクルな迫力を添える映像だった。ただ、一本の映画としては“水と油”の融合が最高の案配までには至っておらず、荒削りな印象も残った。前半から中盤にもう少しバーグマンのアップを入れていればバランスが取れたように思えるが、ロッセリーニ監督も異例の事態にさぞかし混乱していたことだろう。それにしても奇跡の邂逅が生んだ味わいは唯一無二で、カルト性は非常に高い。

※本作の撮影中にロッセリーニとバーグマンはダブル不倫の恋に落ち妊娠。バーグマンは夫と子供に別れを告げてイタリアに渡りロッセリーニと再婚した。アメリカの映画業界やファンからは大批判を受け、本作は興行的に大赤字となった。7年後(1957)に離婚するまでハリウッドからは干されることになる。

※ヴィスコンティ監督のリアリズモ作品「揺れる大地」(1948)を引き合いに出す向きが見受けられるが、共通点は漁村を舞台に素人俳優を起用していることだけで、後は何もかも違う。
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