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ストロンボリ/神の土地のzhenli13のレビュー・感想・評価

ストロンボリ/神の土地(1949年製作の映画)
4.0
イングリッド・バーグマン当て書きの脚本なのだろう。彼女が名声も家族も捨ててロッセリーニのもとへ走ったときの作品だそうなのでバーグマンの役も映画そのものも文字通り熱量がすごい。有り体に言えば自分勝手というか傲慢なところのある女性であり、バーグマンに「何でもやる」という気概のあるうちなら、という目論見あっての当て書きだったのでは想像する。
バーグマンの役どころは「生きるためには!」と目の前の餌に飛びついてみるが「イヤなものはイヤ!」と一つひとつの単刀直入な熱量がなんだか面白く、夫となった男を「単純すぎる」と貶していたものの彼女もある意味単純ではある。あの端正な顔貌に骨太の体躯でストロンボリ島の集落を歩き回る様子からして異質だし、島に着いた瞬間から不快さを示す表情になりその後も島の風習に全く迎合する気もない。当然そういう彼女を人々は受け入れない。頼りにできるのは教会の神父と、淫売と島の人々に疎んじられる女性のところにいた若者で、その二人にも簡単に言い寄るところで笑ってしまった。利用できるものは利用する計算高さというよりその場その場の感情だけで動いている感があり、やはりパーンと弾けるような熱量があるのだ。

ストロンボリ島という活火山の島という場の圧倒的な異様さが当然主題となる。東欧からの難民として逃れてきた役を演ずる北欧出身のバーグマンと、シチリア語が母語となる地中海の火山島という組み合わせを聞いただけでなんかスパークしてるなという感じがある。『ドイツ零年』もそうだったが、ロッセリーニとしては場ありきだったのではとも思う。
助監督が溶岩を撮ろうとして亡くなったという活火山だけでなく、島独特のマグロ漁もほぼドキュメンタリーのようになっている。マグロといえば一本釣りしか知らなかったが、網に追い込んだマグロの大群と身長の倍くらいあるマグロを男たちが漁師歌を歌いながら次々素手で引き上げるシーンは大変迫力がある。またその「男たちの戦場」といったていの場にバーグマンが若者にボートを漕がせて見物に来るという空気の読めなさをインサートしているのが面白い。
火山の噴火で火のついた岩がガンガン降ってくるシーンがあり、あれは作り物なんだろうか?ロケ撮影だろうから民家に被害出るんじゃ…と若干心配になる。
島の人々もバーグマンも海へ向かって逃げて、待ち受けていたたくさんの小舟に乗り込み沖へ出る。波で頼りなく揺れる小舟群を捉えるロングショットは、小さな人間が防ぎようもない自然災害から生き延びるためには一人ひとりの個性や主張などと言ってる場合でなく、集団が集団の不文律を守りながら生活していく必要があることを示している。
なので最後の最後唐突に神様の名を出して祈っているが、そこには頼れる人間も道具も無く火山の灰と火口しかない、人智のおよばない場という説得力は十分にあり、たまたまそのときに思いついたのが神であり、欲求にしたがって頼れるものは何でも頼ってきた彼女のこれまでの行動のそれ以上でもそれ以下でもない、という感じがした。

とはいえ、噴火して数日後であろうときに火山に近づけないと思うんだが…冷えてないだろうし有毒ガス出てるし。
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