てつこてつ

奇跡の海のてつこてつのレビュー・感想・評価

奇跡の海(1996年製作の映画)
4.5
1996年カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ受賞作品。VHS発売時にレンタルして以来の約30年ぶりの再鑑賞。

初見時もかなり心が揺さぶられた(感動とは違う)のはハッキリと記憶しており、チャンスがあればもう一度見てみたいとずっと思っていたので今回レンタルしたのは正解。

デンマーク出身のラース・フォン・トリアー監督・脚本らしいというか、教会の戒律、不貞行為など、実に様々なタブーを扱った内容なので好き嫌いはハッキリ分かれるだろうな。

個人的には、まだ若かりし頃に見た初見時同様に強く自分に訴えかける何かがあり心が震えた要素が詰まっており、やっぱり大好きな作品。

1970年代の時代背景に、プロテスタントの中でも戒律が厳しい長老派の教会が絶対的な権力を持つスコットランドの小さな港街を舞台に描かれる、自分の解釈では“真の信仰心と無償の愛”を描いた美しい物語。

作中でハッキリと病名は明示されないが、明らかに何らかの精神疾患(統合失調症?)を抱えた信仰心が強いヒロインが、事故で不能になってしまった心から愛する夫の指示に従い、それが夫の病状を改善するものだと信じて繰り返す不貞行為・・。

夫の自己満足の為なのか、それとも真に妻を愛するが故の指示なのかが終盤まで見ないと明らかにはならない脚本も良く練られている。

ヒロインを演じたエミリー・ワトソンがオーディションでこの役どころに大抜擢されたのも納得の見事な演技。病気の影響もあるのか、まるで幼い少女のような純真そのものといった表情の演技は、行っている行為こそ猥褻かつ不道徳そのものであるにも関わらず、その真意がハッキリと伝わるのが素晴らしい。

妹を案じ続ける堅実な姉を演じたカトリン・カートリッジの主役を引き立てる演技も凄くいい。これだけいい女優さんを何故最近見ないのかが気になって調べてみたら肺炎と敗血症で41歳の若さで逝去されていたとは実に残念。

1シーンだけしか登場しないウド・キアは、やはりその強烈な容貌から存在感が凄い。

ヒロインの行く末を象徴するような、スコットランドらしい薄暗く寒々しい曇天ばかり続くロケーション撮影もストーリーに合っている。

終盤のクライマックスからエンディングにかけては、まさにタイトル通りの、ちょっと驚く展開となり、158分という長尺が全く気にならなかった。

カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞し日本でも大ヒットした同監督の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」も劇場公開時に鑑賞しているが、あちらは全く自分には刺さらず再鑑賞しようという気持ちも起こらないが、本作のように、自身の倫理観や感性を問われるような作品には、やはり自分は惹かれる傾向にあるなあ。

また、こういう題材をテーマに壮大な作品を作り上げる事が出来るのもヨーロッパ出身の監督ならでは。

モザイクこそかかってはいるが、男性器のアップやヒロインのフルヌードの描写もあるので、やはり観る人を選ぶ作品ではあるかもしれない。

レンタルDVDには30分程度の監督・編集担当・撮影カメラマンが主要なシーンについて語るオーディオコメンタリーの特典があり、作品の鑑賞直後に視聴するのは、彼らは笑いながら軽い口調で語り合っているのでお勧めしないが、余韻を味わった後に見ると、感情の頂点だけを見せたいという監督の意図などが分かり興味深い。
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