アキラナウェイ

奇跡の海のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

奇跡の海(1996年製作の映画)
4.3
人間の生々しさやらエゲツなさをこれでもかと見せつけてくるラース・フォン・トリアー監督作品が好き。鬱っぽいどんより感が持ち味だけど、監督自身が飛行機恐怖症であり、鬱病も散発的に発症していたのだとか。

ラース・フォン・トリアーの作品が大量にU-NEXTで入荷されて、嬉しくてテンション爆上げしていたのに、ここ3ヶ月で観れたのはこちらの1本だけ。観るのに覚悟が要るのも、また彼の作品ならでは。

1970年代、スコットランドの海沿いの寒村。信仰心の篤い女性ベス(エミリー・ワトソン)は、周囲の心配を他所に沖合いの北海油田の海上掘削基地で働くヤン(ステラン・スカルスガルド)と結婚。油田作業で何日も家を空ける彼の帰宅を神に祈るベス。彼女の祈りが通じたのか、ヤンは作業中の大事故に遭い帰還。命は取り留めたものの、下半身付随になってしまう—— 。

7つの章立てで紡がれた物語。
幕間には印象的な色彩で彩られた風景画と60-70年代のロック音楽が流れる仕様。

キリスト教の中でもプロテスタントの影響が強い村社会。排他的な村人の中で、純真無垢でまだ幼さが残るベスと周囲の目も憚らずいちゃつくヤンの姿が強烈。

本作がデビュー作だというエミリー・ワトソン。熱心に神に祈る余りに、神の声を一人二役で演じる姿には鬼気迫るものさえ感じさせる憑依型演技のハマりようが凄い。

長身、長髪のステラン・スカルスガルド。当時45歳。この方、よく脱ぐんだけど本作でも全裸のセックスシーンあり、ボカシなしなのが生々しい。

手持ちカメラで撮られた映像は寒々しい海からの風の冷たさすら感じさせる程にドキュメンタリー的でリアル。

善意の塊、イノセンスそのものと言えるベス。ヤンに起きた事故は自分が執拗に神に願った為だと信じて疑わないその姿が、何とも危なっかしく、物語はどんどんと我々の理解を離れて展開していく。

献身的に介護するベスとそんな彼女に罪悪感を募らせるヤン。やがて彼はベスに自分以外の男性と関係を持つように助言し、盲信的に彼を愛するベスは彼の言葉通り、売春婦の如く、肉欲の罪に堕ちていく。

子供に石礫(いしつぶて)を投げられるまでに辱めを受けるベス。

もうっっ!!
いつも通りエゲツない!!

「奇跡の海」というタイトルに妙に納得してしまう結末。この脚本もまた監督自身が書き上げたというのだから凄い。

また一歩、ラース・フォン・トリアーの世界の深みに踏み込んでしまった。