りょう

奇跡の海のりょうのレビュー・感想・評価

奇跡の海(1996年製作の映画)
4.2
 最初は1998年頃に観たはずですが、当時はラース・フォン・トリアー監督のこともわからず、ありがちな純愛ドラマだと思って、こんな作風に戸惑った記憶があります。Dogme95のフォーマットではありませんが、映像の質感はそんな雰囲気だし、当時は“なんだか荒っぽい撮影と編集だな”みたいな感想しかありませんでした。
 ただ、当時は自分も新婚だったし、直前には遠距離恋愛も経験していたので、2人の心情にとても共感しました。
 後半の展開は“変態”にしか理解できないようなベスとヤンの“性的な関係”に嫌悪すら感じます。当然に周囲から疎まれ、売春婦と罵られるベスは孤立するばかりです。家族や医師のリチャードソンは彼女の特性を理解しているのに、ヤンを妄信するベスには彼らの配慮が通用しません。終盤は悪化する彼女の境遇を静観できませんでした。最後の“奇跡”までは…。このラストシーンがなければ、かなりネガティブなまま数日は引きずりそうな物語です。
 ベスを演じたエミリー・ワトソンは、映画の初主演で驚異的な存在感です。丸っこい目元がかわいくて、最初に観たときはジュリエット・ビノシュに似た雰囲気でした。監督の演出よりも彼女の演技を観る作品かもしれません。素晴らしい女優さんですが、これ以外は作品に恵まれなかった印象があります。HBOシリーズの「チェルノブイリ」(2019年の超傑作)で好演していて安心しましたが、なんだかもったいないです。
 ほぼ劇伴がなく、音楽は1960年代~70年代のロックミュージックが中心です。チャプターの冒頭で使用されますが、やっぱり第4章のProcol Harumの“A Whiter Shade of Pale”が名曲だし、映像にマッチしています。ラース・フォン・トリアー監督は、ここから奇抜な作風になるばかりで、その兆しはありつつも、ちゃんとした物語をストレートに描いているので、とても観やすくて好きな作品です。
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