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仕立て屋の恋のkyのレビュー・感想・評価

仕立て屋の恋(1989年製作の映画)
3.7
恋愛と生死は表裏一体。生を司るのは恋愛でもあり、死を司るのも恋愛であるという様なことを伝えたかったのかな。フランスの美しくもシリアスな街並みが素敵で其処に潜む人間模様が不気味でありながら日常的にも思えました。

周囲から嫌悪の目で見られる仕立て屋のイール。彼の唯一の楽しみは向かいに越してきた美しいアリスを覗くことだった。近所で殺人事件が起こり、イールは真っ先に犯人扱いを受けるが、彼は犯人がアリスの夫エミールであることを知っていた。そしてイールの憧れるアリスは真相を知るイールに接触してくるが、、という物語です。

「髪結いの亭主」に引き続きルコント作品ということで鑑賞です。勿論今作も映像や音楽など素晴らしいのですがルコントの1年のパワーアップ感が凄い。

原作ではユダヤ人であるイールに対する迫害的な側面が描かれている様ですが、映画では主にイールの恋愛模様が中心でした。しかしながら、イールのバックグラウンドが的確には描かれていなかった事もあり、今作も不明確な理由でイールを追求する刑事の姿からは迫害的である様にも感じます。

そんな中でも、手に職を持ち仕事をするイールの姿や窓越しにアリスを見つめ恋をするイールの姿にはエロスとしての描写が見られました。一方で、どういう意図で飼育していたのかはわかりませんがイールの飼育していた鼠の死や路線の脇に餌を巻き鼠を誘導するシーン、ラストの落下のシーンからはタナトスを感じます。
タナトスを感じさせることでアリスへのエロスや愛情をより尊いものであると表現していたのように思えます。

ぶっきら棒にアリスを追い払った後に、残り香を嗅ぐシーンや香水を購入するシーンもまた性的欲求でありながら生理的欲求を感じさせます。するとそれもエロスであるように見えます。

ジャケットにも書かれている「僕は恨んではいないよ。死ぬほど虚しいだけだ。」という台詞もアリスへの愛であり依存的な姿勢が見受けられます。これも含めてアリスはイールの生の全てであったのでしょう。

アリスと旅立つ事を望みイールは置き手紙まで書き、2人で歩める未来を心待ちにしていたにも関わらずラストは切ない。

屋根から落下するイールの機微。アリスの無常な表現。スローモーションによる過ぎて欲しくはない、というイールの感情が時を遅めている様に感じました。
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