『兵隊やくざ』
1966(昭和40年)大映
『不知火検校』(1960)で悪役として注目を集めた勝新太郎は『座頭市物語』『悪名』でダークヒーローとして大映の稼ぎ頭になった。
その勝新太郎の新しいシリーズ一作目。有馬頼義の『貴三郎一代』が原作。黒澤明作品を支えた菊島隆三が脚本担当。
浅草の元義太夫語りのヤクザ。人を殺したこともある(あいつは殺されても仕方のない奴だった)大宮貴三郎(勝新太郎)がソ連国境に近い関東軍にやってくる。
原隊から「扱いにくい兵隊」という申し送りがあり、中沢准尉(内田朝雄)は有田上等兵(田村高廣)に大宮の指導係を命ずる。
大宮は上官に反抗的。頑健な体を持ち鉄拳制裁にもびくともしない。
挨拶をしなかったと砲兵の黒金伍長から難癖をつけられ鉄拳制裁を受ける。有馬は「軍隊では階級より年次がものをいうのだ。貴様俺より一年後に入隊した二年兵だな。二年兵の分際で生意気だ。大宮やってしまえ」と大宮の反撃を許し黒金は散々にやられてしまう。
「階級」対「先輩後輩」どっちが優先なのかは分からない。屁理屈だが黙ってしまった方が負けだ。
ものすごく喧嘩に強い大宮。兵隊心理をよく分かっていて知恵と策略と屁理屈で大宮を苦境から救い出す有田の名コンビが誕生する。
考えてみれば高等学校を卒業して士官になった職業軍人を除くと徴兵された兵隊は元々別の仕事についていた。
『硫黄島からの手紙』(2006)の兵士西郷昇(二宮和也)は「俺は大宮のパン屋なんですよ」と言った。
『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』(1950)の兵士達は大学生や大学教授だった。「きみは慶應か、俺は早稲田だ。球場であっていたかもしれんな」
それぞれ違った人生を送っていた人間が徴兵されてカーキ色の服を着せられて命令一下、敵に突撃する兵器として養成される。
しかし徴兵前のその人間の地金がどうしても出てくる。大宮を付け狙う黒金はもと大学ボクサー選手。そして大宮は滅法喧嘩に強いヤクザ。
理不尽な命令や制裁には従うが許されれば上官を叩きのめす。権力を笠にきた卑劣な奴らをさんざんにやっつける大宮は痛快だ。
生身の肉体がぶつかり合う喧嘩の場面は迫力がある。
しかし一番暴力を振るうのは軍隊。除隊間近だった有馬は「満期除隊、即日召集」と告げられる。永遠に軍隊に使われ続けると知った有田と大宮は脱走を試みるが、、、
人間から自由と尊厳を奪う軍隊に立ち向かう大宮と有田の姿は痛快だ。戦争が終わって26年目に作られたこの映画を観て戦時中の悔しさを晴らした観客も多かったのではないかな。
追記
・どこでロケしたのか広々とした風景が大陸らしさを出している。
・出番は短いが成田三樹夫さんが鋭い目付きの冷酷な憲兵を好演している。
・田村高廣さんが良い味だしてる。反抗的な大宮に真っ正直な心根を見つけて何くれと面倒を見てくれる。軍隊も人間の集まりだと教えてくれる。
・女郎を演じる淡路恵子さん。セクシーさと「いずれここで死ぬ運命」と諦めている哀れさが胸に迫る。