タケオ

寝取られ男のラブ♂バカンスのタケオのレビュー・感想・評価

4.1
 本作『寝取られ男のラブ♂バカンス』(08年)は、日本では「男たちの恋愛強化月間!?」というテーマでジャド・アパトー監督の『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』(07年)とともに二本立てで公開された作品だ。監督は『ディック&ジェーン 復讐は最高!』(05年)や『イエスマン”YES”は人生のパスワード』(08年)の脚本で知られるニコラス・ストーラー、本作が初監督作品である。内容自体は『無ケーカクの命中男~』と同じように、恋愛を通したモテないブ男の成長物語だ。
 本作の主人公ピーター(ジェイソン・シーゲル)は、うだつの上がらない作曲家。彼の唯一の心のよりどころは、ドラマで活躍する人気女優の恋人サラ(クリスチャン・ベル)の存在だった。しかしある日突然ピーターは、サラから一方的に別れ話を切り出されてしまう。受け入れることが出来ずサラの前で全裸のまま駄々をこねるピーターの姿は、あまりにも惨めで爆笑ものである。すっかり意気消沈したピーターは、友人の勧めで傷心旅行としてハワイへと旅立つ。しかし、あろうことか宿泊先のホテルには別れたばかりのサラと、見るからにバカっぽい彼女の新たな恋人アルダス(ラッセル・ブランド)の姿が。完膚なきまでに打ちのめされるピーターだったが、あまりにも哀れな彼の姿に同情したフロント係のレイチェル(ミラ・クニス)が優しく声をかけてくる。レイチェルと交流を重ねることで、少しずつ失恋から立ち直っていくピーター。ところがお人好しな性格が災いし、どういうわけかアルダスと喧嘩をしたサラを慰める羽目になってしまう。サラかレイチェルか、はたしてピーターの愛の行方はいかに…?
 全編にわたって下ネタバリバリの爆笑コメディではあるが、個性的なキャラクターたちのアンサンブルがとても心地よく、描かれる人間ドラマ自体も奥深くて非常に魅力的だ。物語中盤の「ハワイは現実逃避した人たちの逃げ場所でしょ」というサラの台詞が指し示すように、本作の登場人物たちは誰もが皆、辛い現実から逃れようとしている。しかしハワイで繰り広げられる複雑な人間関係が、徐々に登場人物たちを現実へと直面させていく。「なぜ僕を捨てたりしたんだ?」と問い詰めるピーターに、「私は努力した、あなたは何も頑張ってくれなかったじゃない」とサラが答える場面には思わず動揺してしまった。まるで、鑑賞している自分に向かって言われたかのような気分になったからだ。
 ピーターは、サラと付き合うことになった瞬間に成長が止まってしまった。恋愛のゴールは付き合うことだと勘違いし、努力することをやめてしまったのだ。ハワイでの体験を通してピーターは気づく、恋愛にゴールなどないことを。真に誰かに愛される人間となるためには、日々努力を重ね成長していかなければならないことを。そのことに気づいたピーターが、『ドラキュラ』のミュージカルを完成させるクライマックスは本当に感動的だ。愛される価値のある男となるために全力を尽くすピーターの姿は、日々の努力を怠ってはならないという当たり前のことを改めて思い出させてくれる。
本作のラストは映画の冒頭場面の対となっているのだが、そこにはフラれたことを嘆くだけの惨めなピーターの姿はない。同じ全裸でも、愛されるとは何かを知ったピーターの姿はどこまで自信に満ちている。辛いことばかりだけど、ピーターのように自分も頑張らなければ。
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