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ナンネル・モーツァルト 哀しみの旅路のodyssのレビュー・感想・評価

3.0
【まあまあ】

モーツァルトを扱った映画では『アマデウス』が有名ですが、その姉が主人公という一ひねりしたところが見どころの映画。

あの時代、音楽家は芸術家というよりは芸人に近くて、旅をしながら方々を渡り歩き、気前のよい王侯貴族らからお金をいただくことで生活していました。この映画は、当時の音楽家がおかれていた立場や暮らしがしっかり描かれているところがいいと思います。

あとは、アマデウスの姉ナンネルが弟に劣らぬ才能の主でありながら、女性であったために時代の制約で・・・・というところが、今日のフェミニズム的な見解に沿うような形で筋書きに組み込まれています。率直に言うと、こういう側面は近代的に過ぎて、あまり面白いとは思えませんでした。

あと、フランス王太子との関係は、まあ100%フィクションですからどう料理してもいいのですけれど、どうせならもう少し身分の差の描き方に残酷さがあったほうが良かったと思うんですがね。芸術家が芸術家であるために王侯貴族と対等という考え方は、ようやくベートーヴェンあたりになってから出てきたわけで、そのベートーヴェンだって貴族令嬢に恋したりしながら結局釣り合う相手がいなくて独身を通したわけだし。ましてアマデウス・モーツァルトが子供の時代なら、音楽家である女性は王侯にとってはせいぜいお遊びか妾としての存在でしかなかったでしょうし、またそれは音楽家の側にもはっきり意識されていたはずですから、フィクションにしても途中までの展開が甘すぎる気がしました。

とはいえ、神童モーツァルト・ネタを一ひねりして作った映画ですから、あまり多くを望むのも酷でしょう。当時の風俗再現や、王宮内部の豪奢な装飾などを楽しめるし、それを含めれば平均的な出来と見ていいのではないでしょうか。
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