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ウンタマギルーのKUBOのレビュー・感想・評価

ウンタマギルー(1989年製作の映画)
4.5
「GORO」という雑誌をご存知だろうか? 昭和49年から平成4年まで刊行されていた男性向け人気雑誌。当時学生だった私には、いわゆるベッドの下に隠す雑誌。その「GORO」でも特に人気だったのは、篠山紀信による「激写」コーナーだった。

公開当時、実は、その「激写」コーナーに載っていた、神々しいまでの乳房を持った青山知加子さまが出演していると聞いて、かつ全裸シーンがあると聞いて、そんなただのスケベごころだけで劇場に見に行って、完全に玉砕したのを覚えています。だって、全編うちなーぐち、日本語字幕付きバージョンで、なおかつ、この頃の私には、睡魔が100%襲う摩訶不思議ちゃんワールド全開だったんだもん!

だが、時は流れ、沖縄・宮古に数十回通うようになって改めて見てみたら、もう傑作としか言えない名作ではないですか! ということで、本作「ウンタマギルー 」をご紹介しましょう。

「ウンタマギルー 」というのは、沖縄芝居に出てくる架空の義賊「運玉義留」からきている。

舞台は日本復帰(昭和47年)直前の沖縄。まだ何か摩訶不思議なことが起きてもおかしくないような時代。

いきなり始まる「ワタブーショー」。そう、本作では、あの照屋林助さんの歌が場面場面を繋ぐナレーションのような役割を果たして進んでいく粋な演出。照屋林助さんは、りんけんバンドの照屋林賢の父であり、ガレッジセール・ゴリの祖父でもある、沖縄の娯楽・芸能をリードした沖縄ポップカルチャーの第一人者。「ワタブーショー」というのは、その林助さんが昭和32年に結成したグループで、時事問題などを歌謡・洋楽などでおかしくも含蓄の深い漫談にして人気をはくした。ミュージカル調の歌と踊りで始まる本作は、沖縄風「ラ・ラ・ランド」?

初めて見たときには思い切り面食らったが、全編、うちなーぐち、日本語字幕入り! 昨今の一部うちなーぐちとは違って、全面的にうちなーぐちだから、何言ってるか、さっぱりわからん。これは字幕要るわな~。

主役のギルーに小林薫。この精悍な青年が小林薫⁉︎ 時の流れを感じる。時代設定は昭和だけど、沖縄芝居の「運玉義留」に準ずるキャラクター。雇用主である西原親方が囲っている謎の美女マレーに恋心を抱く。

このマレー役の青山知加子さん。いや~、妖艶だわ~。最遊記に出てきそうな、色香の化物ですな。この乳でたぶらかされたら、誰でも狂うわな。

しかし、この青山知加子演じるマレーの正体は、豚の化身「ゥワーマジムン」。西原親方が運玉森の神様から預かったものだったのだ!

そうとは知らずにマレーを毛遊び(「もうあしび」:若い男女が集って飲み食いする、今で言うビーチパーリー?)に誘い深い関係を持ってしまったギルー。マレーを抱いた男はミイラとなって死ぬ運命。ギルーは仲良しのキジムナーに相談するが、そのことでギルーの運命は大きく変化していく。

今は亡き平良トミさんと、今はベテランの吉田妙子さんが出演してるけど、若いな~。

西原親方は「去勢されてもう男ではない」って言われてるけど、返還前と言っても戦後の世の中で「去勢」なんてあったのかな? この辺のところは不勉強なので、どなたか知っている方がいたら教えていただけるとうれしいです。(コメント欄まで、よろしく!)

ギルーが独立党(昭和45年~)に武器を流したことで、後半は一変、政治的な闘いになり、終盤は、昭和のギルーの話が運玉義留の沖縄芝居と重なり合って、芸術的にと変わっていく。

「大和の佐藤首相も沖縄に来た(昭和40年)ことだし、きっと世の中、変わるんだね。」
「佐藤・ニクソンの共同声明(昭和44年)が発表されて、沖縄は日本復帰するぞ。これからは沖縄は日本だ!」村人たちの台詞がファンタジーと社会情勢をリンクさせる。

そして高峰監督の思いはギルーの叫びとなって響く。

「わんはアメリカも日本も祖国とは思わん! この琉球こそ、我が祖国やる!」

不可解なラストシーンが意味しているものは何か? 妖艶なマジムン「マレー」は何を象徴していたのか?

返還間際のファンタジーが沖縄芝居と融合し、物語の終結は本土復帰とリンクする。その摩訶不思議な世界を、照屋林助の「ワタブーショー」がポップに彩る。多面的な沖縄をチャンプルーさせた高峰剛監督の映像世界を、ぜひご堪能あれ。

*とかなんとか言っといて、本作はVHSとレーザーディスクというフォーマットで発売された後パッケージ化されていないため、現状ではレンタル等で見ることは困難。映画専門チャンネルでの放映や上映会などのチャンスがあったら、Don’t miss it!

(今 YouTube で見れちゃうんだけど、これって言っていいのかしら?)
(本作のレーザーディスクは我が家の家宝です!)
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